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中尾良信『栄西 大いなる哉、心や』概要と感想~臨済宗の開祖のおすすめ伝記!密教と禅を共に修した意外な姿とは
今回ご紹介するのは2020年にミネルヴァ書房より発行された中尾良信著『栄西 大いなる哉、心や』です。
早速この本について見ていきましょう。
建仁寺を開き、茶を広めた僧・栄西は平安から鎌倉の時代、二度の入宋を経て、禅をいかに日本に広めようとしたのか。密禅併修の禅は時代の産物か、独自の思想だったのか。本書は、栄西と達磨宗との対比、鎌倉幕府との関係のなかから思想を巡り、日本仏教史のなかに栄西を位置付け、そして日本型禅宗の初祖としての姿を浮き彫りにする。
Amazon商品紹介ページより
栄西(1141-1215)Wikipediaより
本作は日本臨済宗の開祖栄西のおすすめ伝記です。
栄西といえば建仁寺の建立や茶の文化を日本に広めた『喫茶養生記』などでも有名ですよね。
本書について著者は次のように述べています。
本書は書名を『栄西』としながら、内容的には古代聖徳太子の時代から書き起こし、奈良・平安期を通じて、日本仏教と禅宗の関わりをたどったものである。
個人の伝記という意味では、栄西自身についてもっと詳細に述べるべきだったかもしれない。しかし栄西の伝記と思想を考察していった結果、栄西が単発的あるいは偶然に禅宗と出会ったわけではなく、さまざまな形での日本仏教と禅宗の関わりが、古代から中世にかけて断続的にあった中で、ある意味では必然的に栄西による禅宗将来があったし、栄西だけが禅宗に関心を持ったわけではなく、見ようによっては禅宗に対する関心は時代の流れといえることが明らかとなった。
かつて家永三郎氏は「禅宗は鎌倉時代に中国から伝来したものであり、それまでの日本仏教とは関わりがない」と述べられた。もちろん諸先学の研究成果によって、すでに家永説は修正されたといえる。一方で平安期の顕密仏教が、いわゆる鎌倉新仏教の登場で駆逐された訳ではなく、権力層とのむすびつきはその後も継続していたとする黒田俊雄氏(大阪大学名誉教授)の「顕密体制論」が、ある意味で新たな中世仏教史観として呈示された。
従来は鎌倉期以降のみが問題とされてきた日本禅宗の歴史も、日本仏教全体の流れの中で見なければならないということが筆者の基本的な考えであり、栄西個人の功績をより客観的に評価するためにも、歴史的な経過の中で栄西が果たした役割を考えることを、あえて本書のテーマとしたのである。
※スマホ等でも読みやすいように一部改行しました
ミネルヴァ書房、中尾良信『栄西 大いなる哉、心や』P203
ここで著者が述べますように、本書では栄西がもたらした禅仏教を「鎌倉新仏教」単発のものとして見るのではなく、これまでの時代の流れと連続したものとして見ていきます。
特に栄西が禅仏教だけでなく従来の密教の教えも重視していた事実には驚きました。「栄西=禅宗の開祖」というイメージを持たれる方も多いと思いますが、実は彼の仏教は禅だけではなかったのです。むしろ従来の密教と禅を融合させこれまでの仏教と融和的な方向で布教をしていたのでありました。
では、禅と密教を共に行おうとしていた栄西は独特で唯一無二の独創的な存在だったかと言いますと、上の引用にもありますようにそうではありません。この時代には様々な思想を取り入れながら新たな方向を探ろうとした仏教者がたくさん出てきていたのです。
こうした時代風潮を知れるのも本書のありがたい点です。
「栄西=禅宗」という固定観念を打破する刺激的な伝記が本書になります。時代の複雑さを学べるおすすめの参考書です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「中尾良信『栄西』概要と感想~臨済宗の開祖のおすすめ伝記!密教と禅を共に修した意外な姿とは」でした。
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栄西 大いなる哉、心や (ミネルヴァ日本評伝選)
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