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『解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く』概要と感想~南都興福寺の傑僧貞慶の生涯や思想を学ぶのにおすすめの解説書

解脱房貞慶の世界
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阿部泰郎・楠淳證編『解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く』概要と感想~南都興福寺の傑僧貞慶の生涯や思想を学ぶのにおすすめの解説書

今回ご紹介するのは2024年に法藏館より発行された阿部泰郎・楠淳證編『解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く』です。

早速この本について見ていきましょう。

「解脱房貞慶」とは何者か?

学僧としての出世街道を捨てて隠遁し、ストイックに仏道成就の道を追求した鎌倉時代の名僧・貞慶。その生涯と独創的な仏教思想、後代への影響などを厖大に遺された宗教テクスト群や美術作品から多角的に解読。

貞慶に関心を寄せてきた仏教学・文学・宗教思想史・美術史の研究者たちが結集し、いまだ知られざる「解脱房貞慶の世界」へと読者を誘う、今後の貞慶および中世仏教研究に必備の画期的著作!

Amazon商品紹介ページより
解脱房貞慶(1155-1213)奈良国立博物館HPより

解脱房貞慶(1155-1213)は興福寺を代表する法相宗の僧侶で、笠置寺での隠遁生活も有名です。

前回の記事「田中久夫『明恵』概要と感想~華厳宗中興の祖のおすすめ伝記!高山寺で有名な名僧の熱烈な求道の人生とは」で紹介した明恵もそうですが、貞慶も浄土宗、浄土真宗教団からは悪人視されがちな人物です。特にこの貞慶は法然教団の弾圧に直接繋がった『興福寺奏状』の起草者として知られ、専修念仏への強い批判の中心人物であったからです。

ただ、それもやはり法然門下側からの見方であって、やはりこの貞慶という人物も現代の私達が驚くほど仏道に真摯に生きた人でありました。

しかも彼の信仰は驚くほど法然教団と一致する部分もあるのです。ただ、信仰において絶対にわかりあえない問題があるが故に両者は対立することになります。

本書も浄土真宗の僧侶にぜひおすすめしたいです。度肝を抜かれること間違いなしです。

そして私はこの貞慶に心惹かれるあまり、彼が隠遁していた笠置寺や海住山寺を最近訪れました。

この写真にありますように、笠置寺には謎の磨崖仏があります。これは崖を直接彫って描いた仏像の跡なのですが、貞慶はこの弥勒磨崖仏を深く信仰していました。

私もこの弥勒磨崖仏の前に行ってみたのですが、やはりここには何か神秘的な空気があります。喧騒から離れた瞑想的な生活を好んだ貞慶の気風が伝わってくるような場所でした。

弥勒磨崖仏

笠置寺の境内は大岩がごろごろ重なるインドの霊鷲山を髣髴とさせるような山場でした。釈尊に深く帰依した貞慶です。もしかするとその思いがこうした景色と繋がっているのかもしれません。(霊鷲山についてはこちらの「ブッダ説法の聖地霊鷲山~無量寿経や法華経の舞台となった聖地へ」の記事参照)

本書『解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く』はそんな貞慶の全体像を学ぶのに非常におすすめです。私も衝撃を受けました。

そして次の記事で紹介する多川俊映著『貞慶『愚迷発心集』を読む』もこれまたとてつもない名著です。ぜひセットで読んで頂きたい作品となっています。これらを読めば鎌倉仏教の見え方ががらっと変わります。ぜひぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「『解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く』概要と感想~南都興福寺の傑僧貞慶の生涯や思想を学ぶのにおすすめの解説書」でした。

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解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く (龍谷大学仏教文化研究叢書 53)

解脱房貞慶の世界 『観世音菩薩感応抄』を読み解く (龍谷大学仏教文化研究叢書 53)

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解脱房貞慶の世界

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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