村山修一『比叡山史 闘いと祈りの聖域』概要と感想~比叡山内の抗争、僧兵の歴史を知るのに特におすすめの参考書

村山修一『比叡山史 闘いと祈りの聖域』概要と感想~比叡山内の抗争、僧兵の歴史を知るのに特におすすめの参考書
今回ご紹介するのは1994年に東京美術より発行された村山修一著『比叡山史 闘いと祈りの聖域』です。
早速この本について見ていきましょう。
内容説明
最澄に始まる天台宗の教団は深く政治の中枢に関わりながら歴史をどのように動かしたか?比叡山の盛衰を緻密な歴史研究と闊達雄渾な叙述で見事に描き出す。目次
紀伊國屋書店商品紹介ページより
比叡の神々
比叡山大乗仏教の誕生
三塔の形成と顕密仏教の確立
密教万能
比叡山謳歌
教団の分裂と権門化
源平争乱と比叡山
山を下りた求法者たち
回峯行者と山村民
公武対立に揺れる山門
教団の頽廃と崩壊への道
比叡山の復活と余光

比叡山延暦寺に関する書籍はこれまでも当ブログで杉谷義純著『比叡山と天台のこころ』や下坂守著『京を支配する山法師たち』を紹介してきました。
杉谷義純著『比叡山と天台のこころ』は比叡山の歴史や教えを大きく掴むためのおすすめ入門書で、下坂守著『京を支配する山法師たち』は比叡山の経済事情と僧兵たちの関係性を知れる専門書でありました。
そして本書『比叡山史 闘いと祈りの聖域』はそのタイトル通り、比叡山内における抗争と宗教的な伝統について詳しく知れる超一級の資料となっています。
特に本書では僧兵の成り立ちと、なぜ比叡山内での武力抗争が相次いで起こったのかということに注目して解説されていきます。
そもそも僧兵はどこから現れたのか。彼らは何者なのか。本当に僧侶なのか?
こうした素朴な疑問もこの本を読めば解決します。
そして興味深いのがなぜ仏教の聖域たる比叡山で武力抗争や焼き討ちが頻繁に繰り返されたかということに対する次の箇所です。
当時、円仁・円珍両門徒の軋轢はなはだしきのみならず、僧坊の坊主は独自に特定の世俗の後援者と結んで派閥をつくり、三塔それぞれの内部でもいくつかの集団を形成し、対立していた。各派閥は寄進を受けた所領を有し、これを守るため堂衆など教団の下層に属する人々に武器を持たせて対抗し、これが山上での武器氾濫・喧嘩・刃傷を多発させた。
東京美術、村山修一『比叡山史 闘いと祈りの聖域』P129
そもそも比叡山延暦寺は最澄から始まりますが、彼の死後その後継者争いでまず揉めてしまいました。そしてそれが円仁、円珍派の抗争へと結びつき、さらにそれぞれの僧房の支援者の対立も絡み合い収拾のつかない状況になっていたのです。比叡山延暦寺といえばひとつのお寺のように私達は考えてしまいがちですが、当時の比叡山はそれぞれの僧房が独立していて、その集合体が比叡山延暦寺という呼ばれ方をしていたのです。なのでそもそも比叡山は一枚岩ではありません。
これ以上お話しすると話が長くなってしまいますので興味のある方はぜひ本書を読んで頂きたいのですが、私もこの本で語られる比叡山の実情には実に驚かされました。これはものすごい本です。
そしてこの本では単にこうした政治的抗争たる僧兵の歴史だけではなく、その中でも仏道を成就せんと熱心に励んだ僧侶たちの歴史も語られることになります。こうした抗争と大混乱の中でも、いや、だからこそ熱烈に仏法を求めた僧侶たちがやはりいたのです。
そのひとりがわが浄土真宗の開祖親鸞聖人でもありますし、浄土宗の開祖法然上人でもあります。
他にも私がぐっと来たのが天台座主慈円の存在です。慈円についてはすでに当ブログでも大隅和雄著『愚管抄を読む』や『慈円』を紹介しました。これらの本を読んですでにわかっていたことではありますが、改めて慈円という人物の偉大さを思わずにはいれません。これほど争いに満ちた比叡山の中で彼は仏法のために闘っていたのです。比叡山のトップたる地位である天台座主と言っても、実は山内をコントロールする権威などどこにもないことが本書では解説されていました。なので慈円も僧兵の戦闘を止めることはできていません。ですが慈円は慈円なりに山内の風紀を回復し、学問を振興させ仏法興隆への道を模索し続けていたのでありました。
本書タイトル『比叡山史 闘いと祈りの聖域』における闘いは「僧兵による抗争」という面に目が行きがちではありますが、こうした熱烈な仏道修行を志した僧侶たちの闘いでもあったことを私は強調したいと思います。
親鸞聖人がおられた頃の比叡山は一体どのような状況だったのかを知るために手に取った本書でありましたが、これはものすごい名著です。ぜひぜひおすすめしたい一冊となっています。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「村山修一『比叡山史 闘いと祈りの聖域』概要と感想~比叡山内の抗争、僧兵の歴史を知るのに特におすすめの参考書」でした。
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