MENU

杉谷義純『比叡山と天台のこころ』概要と感想~天台宗と比叡山の歴史を学べるおすすめ入門書

比叡山と天台の心
目次

杉谷義純『比叡山と天台のこころ』概要と感想~天台宗と比叡山の歴史を学べるおすすめ入門書

今回ご紹介するのは2020年に春秋社より発行された杉谷義純著『比叡山と天台のこころ』です。

早速この本について見ていきましょう。

最澄が開き今もなお多くの仏教者が活躍する比叡山延暦寺。その日本人の聖地で,各時代に誰もが仏になれる教えを実践した人物をたどり,天台の魅力の源泉を探る。 〈新装版〉

Amazon商品紹介ページはこちら
根本中堂(国宝)と廻廊(重文)Wikipediaより

本書『比叡山と天台のこころ』は天台宗と比叡山の歴史を学ぶのにおすすめの入門書です。

本書について著者は冒頭で次のように述べています。

大方の日本人は「私はクリスチャンです」などと言われると、なんとなく「あっ、そうですか」と納得してしまいます。ところが「私は仏教徒です」と言われると、なんだかピンときません。そして「何宗ですか」と聞く人が多いのです。

そこで、天台宗とか浄土真宗ですなどと答えると、最澄や親鸞などの宗祖の名をあげて、やっと分かったような顔をします。日本の仏教が宗派仏教とか祖師仏教といわれるゆえんです。

一方では、宗派仏教だけしか見ないせいか、釈尊はじめ、仏教全体に対する視野が著しく欠けている場合が少なくありません。他方、宗派仏教にあきたらない人は、インド仏教などに知識を求め、日本仏教は正しい仏教ではないなどと批判する人もいます。

そもそも、仏教は釈尊以来、二千五百年の悠久の歴史の中で、インド、中国、アジアの各地に伝播してきましたが、それらの国々には、すでに多種多様な民族、言語、文化があったことを知らねばなりません。

したがって、仏教がそれぞれの文化圏に受容されていくということは、必ずその地域の文化、伝統、慣習の影響を受けざるをえないのです。第一に、仏教がその地域の言葉で語られているのですから、当然のことでありましょう。とくに仏教は寛容な宗教といわれ、土着の文化を排除するよりも、むしろそれを吸収していくかたちで、広がっていきました。とくにインドでのヒンドゥー教、中国の道教や儒教の影響は少なくなく、また日本に伝わると、神道の影響なども受けました。

そんなわけで、仏教の全体像を把むとなると、容易なことではないのです。しかしながら、天台仏教に触れることは、その足がかりとなるでしょう。中国天台はインドから中国へ伝えられた仏教を集大成する形で成立し、さらに日本天台では、中国天台成立以降の密教などを吸収して、さらに総合的な仏教として展開していくからです。そこで本書では、日本の天台仏教に焦点をあてて、「比叡山と天台のこころ」を描くことにつとめました。

春秋社、杉谷義純『比叡山と天台のこころ』P3-4

この箇所を読んで頂ければわかりますように、著者は広い視野で仏教を見ています。そして何より、その語り口も穏やかでとても読みやすいです。

本書ではこうした著者の語りの下、比叡山の歴史を順を追って見ていくことになります。

比叡山延暦寺や最澄は誰もが知る存在ですが、いざその詳しい歴史はどうだったかということになると意外とあまり知られていないというのが実際のところだと思います。

私自身、こうして日本仏教を学び直していく中でたくさんの発見がありました。浄土真宗の開祖親鸞聖人が修行された比叡山延暦寺とはいかなる場所だったのかということをわかりやすく学ぶことができました。

本書は比叡山や天台宗の教えを学ぶのにおすすめの入門書です。比叡山や天台宗に興味のある方にぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「杉谷義純『比叡山と天台のこころ』概要と感想~天台宗と比叡山の歴史を学べるおすすめ入門書」でした。

Amazon商品紹介ページはこちら

比叡山と天台のこころ 新装版

比叡山と天台のこころ 新装版

前の記事はこちら

あわせて読みたい
小原仁『源信』概要と感想~『往生要集』で有名な天台僧のおすすめ伝記!比叡山の高度な学問事情も知れ... 本書は学問の総本山としての比叡山で学びを深めた源信の生き様を詳しく見ていけます。 本書は「『往生要集』の源信」にとどまらない様々な発見がある名著です。当時の時代背景も知れるおすすめ作品です。

関連記事

あわせて読みたい
多賀宗隼『慈円』概要と感想~『愚管抄』で有名な天台座主の真摯な求道に胸打たれる!親鸞が比叡山にい... 私はこの慈円の伝記に非常に強い感銘を受けました。親鸞聖人がおられた頃の比叡山を知りたいという思いから手に取った本書でしたが、実に素晴らしい作品でした。 当時の時代背景や慈円の熱烈な仏道修行、そして天台座主としての苦悩などさまざまな発見がある名著です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
あわせて読みたい
平林盛得『良源』概要と感想~荒廃した比叡山を復興し、横川の念仏信仰や学問道場を再興した傑僧のおす... 本伝記は10世紀中頃から後半にかけて活躍した比叡山天台座主良源の生涯や当時の時代背景を知れるおすすめ作品です。 源信を育てた師匠としての良源に私は深い敬意を抱いています。
あわせて読みたい
大隅和雄『愚管抄を読む 中世日本の歴史観』概要と感想~慈円の思想や当時の時代精神を学ぶのにおすすめ... この本はとてつもない名著です。慈円の『愚管抄』を題材に当時の時代背景や神仏の世界について新たな視点で考えていける素晴らしい作品です。紹介したい箇所が他にも山ほどありすぎてこの記事では到底紹介しきれません。それほど刺激的な解説が満載です。 これから先も私は何度もこの本を読み返すことでしょう。平安末期から鎌倉時代初頭にかけての時代精神を考える上で必読と言ってもよい名著です。
あわせて読みたい
慈円『愚管抄 全現代語訳』概要と感想~天台座主慈円による歴史書。慈円は法然教団をどう見たのか 比叡山側が法然教団をどのように見ていたかを子細に記録に残したこの『愚管抄』は非常に貴重な歴史資料です。私達浄土真宗側は弾圧された被害者としてその歴史を叙述しましたが、それに対する立場からの言葉も聞いていく必要があるのではないでしょうか。
あわせて読みたい
佐伯有清『円珍』概要と感想~比叡山寺門派の祖となった傑僧のおすすめ伝記 本書を読んでいくと驚くほど「激しい」円珍の姿を知ることになります。やはり歴史に名を遺す偉人は違います。まさにカリスマ。こうした規格外の人間だったからこそ歴史を変えてしまうほどのインパクトを残すことになったのでしょう。 円珍というカリスマの巨大な人生を知るのに本書はとてもおすすめです。
比叡山と天台の心

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

目次