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山田奨治『禅という名の日本丸』あらすじと感想~『弓と禅』は禅ではなかった⁉日本文化の幻想を暴露する衝撃の一冊

禅という名の日本丸
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山田奨治『禅という名の日本丸』あらすじと感想~『弓と禅』は禅ではなかった⁉日本文化の幻想を暴露する衝撃の一冊

今回ご紹介するのは2005年に弘文堂より発行された山田奨治著『禅という名の日本丸』です。

早速この本について見ていきましょう。

「弓道」「石庭」「禅」という日本文化の代表的な題材をもとに、意表をつく視点から日本人のセルフ・イメージを探る。
 日本文化論の古典として、いまなお読み継がれる大ロングセラー、ヘリゲル著『弓と禅』。誤解ともいうべき「日本文化」のイメージを世界中に流布させた「名著」は、どのように作られていったのか? ヘリゲルのナチス時代の資料をも発掘しながら、真相にせまる知的発見の書。
 日本文化の情報がどのように外国に伝わり、それが日本にどのように環流して、日本文化そのものを組み替えたかという本書のテーマを、著者は、龍安寺の石庭についても論じ、日本を代表する知識人たちが、訪れる人もまばらな寂れた庭を、世界的に「有名」にしていったプロセスとして描き出す。
 鏡に映った「日本人」を追究する、知的エンターテインメント。読み出したらとまらない。

弘文堂商品紹介ページより
Amazon商品紹介ページはこちら

1956年に日本で発刊されたオイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』は、日本文化と禅の関係性を述べた名著として圧倒的な評価を受けてきた作品です。私もこの本を禅と武道の関係性を説いた古典としてかつてこの本を読んだことがあります。

しかし、この禅の名著とされてきた『弓と禅』が実は禅とは関係ないものだったとしたら?

本書ではそんな驚くべき事実が暴露されます。これはもう衝撃以外の何物でもありません。日本文化とは何ぞやという命題がそもそもひっくり返るほどの大事件です。本書のまとめに書かれた次の言葉は特に印象的です。

「~こそ日本文化を代表するものだ」と、世間に流通している言説は、その成り立ちを一度は疑ってみたほうがよい。ハイ・カルチャーからサブ・カルチャーまで、文化のあらゆる領域で、昔もいまもおなじようなことが起きている。

弘文堂、山田奨治『禅という名の日本丸』P346

そうです。まさに「禅こそ日本文化を代表するものだ」という言説こそ、戦後に作られたものだったのです。私達は日本文化を伝統あるものと思い込んでいますが、実はその文化こそ近年構築されたものだったということが多々あるのです。

以前当ブログでも紹介した『東京ブギウギと鈴木大拙』でも鈴木大拙が伝説化され、都合の悪いものを消しながらイメージが作られていたことが明らかにされましたが、これは大拙だけの問題だけでなく、日本におけるあらゆるジャンルにもその可能性があるのです。まさに「創られた伝統」です。「はるか昔から日本人が受け継ぎ大切にしてきた」と私達が思い込んでいるものがはたして本当にそのようなものなのかという恐ろしい事実が浮かび上がってきます。

『禅という名の日本丸』にはそうしたある種戦慄の事実が書かれています。ぜひこれは僧侶の方に読んで頂きたい驚異の名著です。

『東京ブギウギと鈴木大拙』と合わせて読まれることをおすすめします。

以上、「山田奨治『禅という名の日本丸』あらすじと感想~『弓と禅』は禅ではなかった⁉日本文化の幻想を暴露する衝撃の一冊」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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