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牧野隆夫『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』あらすじと感想~廃仏毀釈の実態は何だったのか。仏像修復の現場から見えてくる衝撃の事実とは

仏像再興
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牧野隆夫『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』あらすじと感想~廃仏毀釈の実態は何だったのか。仏像修復の現場から見えてくる衝撃の事実とは

今回ご紹介するのは2016年に山と渓谷社より発行された牧野隆夫著『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』です。

早速この本について見ていきましょう。

三十数年にわたり、地方の仏像修復を手掛けてきた「仏像の町医者」牧野隆夫氏による仏像修復の記録。

京都・奈良の有名寺院に祀られる国宝級の美仏以外に、全国各地には数百万体の仏像が存在する。
長い時を経てその多くは壊れかけ、ひそかに朽ち果てようとしている像も少なくない。
これらの仏像は、現在まで誰がどのようにして守ってきたのか?
昔の人々は、仏像の修復を、「再興(=再び興す)」という言葉で表し、実践してきた。
著者が出逢った仏像たちに残されたその痕跡は、学術資料的価値の保存に偏った、現代の「文化財修理」とは、まったく別の考えに立脚したものだった。

「人はここまで壊れたものを、なぜ直そうとするのだろうか」――。

日本人にとっての仏像とは、いったい何であったのか? 現代の「仏像再興」とは?
「美仏」めぐりだけでは決して見えてこない「日本の仏像」の本質が見えてくる。
仏像愛好家、日本の文化をもっと知りたい人へ――修復家からの一冊。

Amazon商品ページより

本書『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』ですが、とんでもない本と出会ってしまいました。ものすごい名著です・・・!

この本についてどうまとめればよいのか迷うほどてんこ盛りの内容です。

本書ではその書名通りまずは仏像修復の現場を著者の語りで見ていくことになるのですが、この現場でのやりとりが非常に興味深いです。興福寺や薬師寺など誰もが知る大寺院の修復となると様々なメディア媒体などで私達もなんとなくイメージがつくかもしれませんが、一般寺院レベルでの修復となるともはやイメージすることすらほとんどできませんよね。私もそうでした。

しかも一般寺院といっても、日本全国には歴史あるお寺が無数にあり、その仏像も重要文化財や自治体に指定されていることが多々あります。こうなると、中小規模の一般寺院ではどうにも対処できないという問題が起こってきます。観光客が多数来る有名観光寺院でない限り、その修復の費用や作業負担などは各寺院にとって非常に重たいものがあります。これは私も一寺院の僧侶としてとても頷けるものがあります。お寺を維持運営していくだけでも大変な中、文化財をどう守ればよいのかというのは非常に難しい問題です。

こうした背景がある中で著者は現場の寺院関係者と連携しながら実際に仏像を修復していきます。

この修復の過程や著者の仏像修復への思いがこの本では語られていくのですが、これがまた私の心に刺さるのです・・・私はものすごい本を読んでいる・・・!鳥肌が立つほどでした。

そしてこうした仏像修復の中で著者は様々な疑問や問題点を見つけていきます。その最たるものが「なぜ仏像が無残な状態で放置されているのか、またなぜ破損した仏像がこんなにも多いのか」という問題でした。

これがあの廃仏毀釈と繋がってくるのです。

本書後半では明治政府の神仏分離令やその後の仏教、神道政策の流れがわかりやすく解説されます。この解説も見事で、私もこれまで何冊か廃仏毀釈に関する本を読んだのでありますがその中でも圧倒的にわかりやすく、深い考察がなされています。

ただ単に廃仏毀釈で寺院や仏像がひどい目に遭ったという事例紹介で終わるのではなく、なぜそれが起こったのか、それが進んだ背景とは何だったのか、人々はそれに対しどのような思いを持っていたのかということを現場の目線からも見ていきます。破損した仏像を修復してきた著者だからこそ見えてくるものがあります。

本書で明らかにされた廃仏毀釈の実態を知り、私は衝撃を受けずにはいられませんでした。単に「寺院や仏像が破壊された」で済まない大きな歴史のうねりがそこにあったのです。「廃仏毀釈は江戸時代に堕落した仏教への反感から起こった」という説が説かれていたこともありますが、これがいかに作為的なものだったか本書を読めばはっきりします。そんな単純な話ではないのです。

本書は私にとって忘れられぬ作品となりました。何度も言いますが、この本はとてつもない作品です。

仏像に興味のある方だけでなく、仏教、日本史好きの方にもぜひぜひおすすめしたい名著です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「牧野隆夫『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』あらすじと感想~廃仏毀釈の実態は何だったのか。仏像修復の現場から見えてくる衝撃の事実とは」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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