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松木武彦『考古学から学ぶ古墳入門』概要と感想~古墳とは何かをわかりやすく学べるおすすめ入門書

古墳入門
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松木武彦『考古学から学ぶ古墳入門』概要と感想~古墳とは何かをわかりやすく学べるおすすめ入門書

今回ご紹介するのは2019年に講談社より発行された松木武彦著『考古学から学ぶ古墳入門』です。

早速この本について見ていきましょう。

【百舌鳥・古市古墳群、世界文化遺産登録へ!】

日本が世界に誇る遺産、古墳。巨大な前方後円墳、大山古墳(仁徳天皇陵)を含む百舌鳥・古市古墳群が、世界文化遺産に登録される見込みとなりました。今、古墳への注目が一気に集まっています。

物質資料を基に研究をする考古学の見地から、古墳の魅力と当時の日本の姿を紐解いたのが本書です。前方後円墳の前はどんな形だったのか、地域による違い、石室、棺の特徴や変化、被葬者の謎、副葬品に込められた意味など、これまで積み重ねられてきた知見から、さまざまな角度で古墳にスポットを当てていきます。古墳の見つけ方、発掘の仕方、調査研究の方法など、古墳をより詳しく知るための専門的知識もわかりやすく解説。多くの古墳を研究してきた考古学者の著者が案内する、古墳の本当の面白さに出会える1冊です。

Amazon商品ページより

本書は古墳の入門書として非常におすすめです。

石舞台古墳 Wikipediaより

私自身、古墳というのはこれまで縁遠く、恥ずかしながらそこまで関心を持ったことがありませんでした。これは私が北海道在住で関西の古墳群を実際に見たことがないことも大きいのではないかと思います。どうしても教科書に載っていたというイメージしか湧かないのですよね。

ですが、そんな私もついに古墳を訪れる機会が訪れました。私はこの先奈良の飛鳥寺を訪れる予定なのですが、地図を調べてみると、なんとこの周辺には有名な古墳がいくつもあったのです。高松塚古墳やキトラ古墳、石舞台古墳など、教科書で見たあの古墳です。レンタカーを使えば簡単に回れそうな距離感です。これは行くしかありません。私は勇んで日程を組んだのでありました。

こうなると私は古墳に興味を持たずにはいられません。そもそも古墳とは何だったのか。どのように作られたのか。人々にとってどのような意味を持っていたのか。そうしたことを改めて学び直したくなったのです。そこで手に取ったのが本書『考古学から学ぶ古墳入門』だったのです。そしてそれは大当たり。冒頭の次の言葉から私はすっかり撃ち抜かれてしまいました。

私たちの先祖は、3世紀から7世紀にかけて、15万基以上の古墳を、日本列島に遺しました。これほどの数の古墳を築くときに用いた土は、東京ドームの天井いっぱいにまで詰めたとして、およそ800杯分の量になります。そのほか、石室などの石を運んで積んだり、埴輪を焼いて立てたりする労力までを考えると、今日でいうGNP(国民総生産)の半分以上を、古墳の築造という営みが占めていたと推定されるでしょう。

人々の一日・一年・一生も、古墳造りに深く取り込まれていました。父母や祖父母、おじやおば、一族の長や村の代表者、地域の王や女王などのために、農作業の合間をぬっては毎年のように、人々は鋤や鍬をたずさえ、古墳造りの現場に通いました。はるばる大和や河内に上り、大王の古墳造りに従事した人もいたでしょう。あるいはまた、設計、施工の現場監督、埴輪職人など、古墳造りのプロとなって一生をそれに捧げる人々も、たくさん現れていたにちがいありません。

何代も前に築かれて緑に覆われつつある古墳、葺石の白や埴輪の赤が目にまぶしいできたばかりの古墳、目下建設中の古墳、縄で囲まれた古墳予定地。どこを見ても古墳でいっぱいの景観の中で、古墳にまつわる親たちのさまざまな語りを聞きつつ育ち、やがては古墳造りに汗をかき、自らもまた古墳に眠ることになる人々。身も心も、彼ら彼女らは古墳人だったのです。こんな人々がいた不思議の国へ、この本では旅をします。

講談社、松木武彦『考古学から学ぶ古墳入門』p2,3

いかがでしょうか。

私は特に「どこを見ても古墳でいっぱいの景観の中で、古墳にまつわる親たちのさまざまな語りを聞きつつ育ち、やがては古墳造りに汗をかき、自らもまた古墳に眠ることになる人々。身も心も、彼ら彼女らは古墳人だったのです」という言葉にぐっと来ました。

こう言われてみると古墳に対する見方が変わってきますよね。古墳は単に土を盛ったお墓ではなく、彼らの生活そのものでもあった。これは想像もしていませんでした。

思えば武者小路穣の『天平芸術の工房』でも東大寺造営には信じられない規模の動員がなされていたことが書かれていましたが、もしかするとそれはこうした古墳時代の動員の伝統があったからこそなのかもしれないとも思ってしまいました。そして東大寺造営に関わった無数の人々が東大寺と共にあったということも共通します。巨大モニュメントの建造の価値はその完成品の威容だけにあるのではなく、その建造過程で多くの人がそれに直接関わる面にもあるのかもしれません。そんなことも考えさせられた本書でありました。

この本では古墳の歴史やその作り方、発掘のプロセスがわかりやすく解説されます。そしてさらには「古墳の見つけ方」という刺激的な章まであります。古墳に全く関心のなかった方でも自然に興味を持ってしまうような章立ては見事です。とても刺激的で一気に読み込んでしまいました。

古墳入門にぜひぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「松木武彦『考古学から学ぶ古墳入門』概要と感想~古墳とは何かをわかりやすく学べるおすすめ入門書」でした。

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考古学から学ぶ古墳入門

考古学から学ぶ古墳入門

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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