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木本好信『奈良時代』概要と感想~奈良時代の政治の流れを知るのにおすすめの参考書

奈良時代
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木本好信『奈良時代』概要と感想~奈良時代の政治の流れを知るのにおすすめの参考書

今回ご紹介するのは2022年に中央公論新社より発行された木本好信著『奈良時代』です。

早速この本について見ていきましょう。

平城京への遷都で幕を開けた奈良時代。律令体制の充実期で、台頭する藤原氏はその立役者だった。唐の文物が輸入され、国際色豊かな天平文化も花開く。他方で長屋王の変、藤原広嗣の乱、恵美押勝の内乱など政変が相次ぎ、熾烈な権力闘争が繰り広げられた。飢饉や疫病にも襲われる。仏教を重んじ、遷都を繰り返した聖武天皇、その娘で道鏡の重用など混乱も招いた孝謙(称徳)天皇の治世を軸に、政治と社会が激動した時代を描く。

Amazon商品紹介ページより

本書『奈良時代』は奈良時代の歴史を学ぶのにおすすめの参考書です。これまで飛鳥時代など古代史についての本を読んできましたが、やはり奈良時代頃になると歴史資料も増えてより細やかな歴史を知ることができるようになってきます。私は考古学的なセンスが弱く、古代史には苦手意識があるのですが奈良時代に入ってくるといよいよ人間ドラマが見えてくるようで個人的には一気に楽しくなってきました。

そんな本書について著者は冒頭で次のように述べています。

奈良に本格的な秋の訪れをつげる正倉院展。毎年多数の入場者で賑わい、奈良時代への根づよい関心がしられる。聖武天皇や光明皇后遺愛の品々をはじめとする正倉院宝物が展示されて、入場者は奈良時代へと心を馳せ、憧憬の時間を過ごす。

このように奈良時代への関心には高いものがあるが、基礎知識だけでももって観覧すれば、それぞれの宝物が見学者にもっと多くの奈良時代の人々の実相を語りかけ、有意義な時間をすごすことができるのではないだろうか。さらにいうならば、正倉院展見学に限らず人生のさまざまな場面でも有益と思われる。本書執筆の意図もまさにそこにあって、関心のある読者の欲求に応えることを第一の目的にしている。

まず、奈良時代を対象とした諸書に記述されている事柄についてはわかりやすく紹介することに努めた。そして、追究する余地のある事柄では新しい見解を提示している。他方、従来の諸書では詳しい説明がなく、また記述そのものがなく看過されているものの、奈良時代を理解するうえで重要と思われる事柄については詳細に論じることを心がけた。

本書では奈良時代の政治史を中心に話をすすめていく。皇位継承をめぐって長屋王の変、橘奈良麻呂の変、恵美押勝の内乱などの政変・政争がつづき、熾烈な権力闘争のなかに赤裸々な人間本来の姿がみえた時代でもあった。けれども、歴史とは人々の生活の足跡にほかならず、政治史だけで奈良時代を語りつくすことはできない。経済・宗教・文化・外交などの諸分野とも連動しているわけであるから、そうした面にも留意する必要があると考える。

中央公論新社、木本好信『奈良時代』ⅰーⅱ

長屋王の変、橘奈良麻呂の変、恵美押勝の内乱は高校日本史でも学びましたが、その背景や詳しい経過などを本書で知ることとなりました。ここで著者が述べるようにまさに「赤裸々な人間本来の姿」が見える人間ドラマがこの本で展開されます。

やはり人間ドラマです。歴史の醍醐味といえばこれですよね。

本書はまず天智、天武両天皇について語られ、そこから奈良時代の歴史を見ていくことになります。この天智・天武という二つの系譜が後の平安京遷都へと繋がっていくという大きな流れを本書で知ることができます。私はかつて平安京遷都は奈良の仏教勢力から離れるためと受験時代に習ったのですが、話はそう単純ではなかったのです。実は天武朝の奈良平城京から離脱して新たな天智系の都を作ることこそその大きな理由だったのでした。

やはり宗教は宗教だけにあらず。単に仏教勢力から離れるためという理由ではなかったのです。

本書ではそんな政治の大きな流れや持統、文武、聖武天皇という天皇継承の流れやその意味も詳しく知ることができます。しかも上の引用にもありますように、一般読者でも読めるようわかりやすく解説がなされます。

知っているようで知らない奈良時代の歴史を新たに学べる素晴らしい一冊です。参考図書も多数掲載されていますのでもっと奈良時代について学びたいという方にも有用です。私もこの本を参考にこれからさらに学んでいきたいと思います。

以上、「木本好信『奈良時代』概要と感想~奈良時代の政治の流れを知るのにおすすめの参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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