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大形徹『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』あらすじと感想~中国の錬金術や死生観について知るのにおすすめ

不老不死
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大形徹『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』概要と感想~中国の錬金術や死生観について知るのにおすすめ

今回ご紹介するのは1992年に講談社より発行された大形徹著『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』です。

早速この本について見ていきましょう。

古代中国において、死は単純な「終わり」ではなく、「再生のはじまり」であった。精神は「鬼」となり、生き続けた。しかし、肉体は朽ちる。この肉体を不滅のものとしたのが不老不死の「仙人」である。本書では肉体の保存法にはじまり、仙人の誕生、不老不死を求め狂奔する皇帝たち、ときに猛毒をも含んださまざまな仙薬、そして房中術など「気」を用いた長寿法についても詳述する。信用のおけない来世よりも、いつまでも若々しくこの世に永らえたい──「不老不死」の欲望が多様な神仙術を生み出していくさまを、死生観の変化とともに解き明かしていく。

Amazon商品紹介ページより

本書『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』は中国史に何度となく出てくる不老不死や仙人について知るのにおすすめの参考書です。

秦の始皇帝は中華統一後、不老不死を追い求め仙薬を服用したことで有名です。他にも唐末の皇帝たちがこぞって不老不死をもたらすという怪しい仙薬を服用し、かえって副作用に苦しみ早死にしたことが知られています。

中国の錬金術たる錬丹術もまさにこの不老不死、仙人思想から発展してきています。中国においては水銀に様々な金属を溶かして仙薬を作っていました。もちろん現代においてはそんな水銀を飲んだら身体に悪いのは自明のことでありますが、当時は真剣に不老不死を求めての必死な行為だったのでした。

ではなぜ中国人はそこまで不老不死にこだわるのか、仙人思想はどこから生まれてきたのか、それを知るのに本書はとてもおすすめです。

かつての中国において生と死はどのように考えられていたのか。また、具体的にどのような薬物を処方していたのかということも詳しく知ることができます。

そして本書の中でも特に印象に残っているのが中国における肉体と死への考え方でした。

中国では死後生まれ変わるには肉体が完全でなければならないという考え方があったようです。そしてこの考え方からある恐るべき事態が生じてくることになります。

遺体が完全でなければあの世に生まれかわれない、という考えかたの裏がえしが、相手の体をズタズタに引き裂くという考えかたである。孔子の弟子の子路は勇者として知られたが、戦闘にまきこまれて殺された。『礼記』檀弓篇には、子路の遺体がかい(肉の塩辛)にされたことを記す。後漢の大儒、鄭玄は檀弓篇に注釈し、こう理解した。

  醢にするのは、それを食らうことにより、まわりの人々を怖けづかせるためだ。

つまり、人間の死体からつくられたおぞましい食物をたべることのできる勇気でもって他の人々を圧倒し、畏怖させるのだという。この解釈は現代人の感覚にちかいだろう。(中略)

だが、この話は別の角度から解釈すべきだとおもわれる。塩辛というのは、ようするにコマギレにすることである。遺体をコマギレにするのは、遺体を完全にしておくための異常な努力とくらべてまさに百八十度の差がある。けれどもその考え方の根本はおなじものてある。

遺体が完全でなければあの世に生まれかわれないという考えかたによって、自分の体や親の遺体を大切にする。わが身を中心に考えたばあいはそうなる。しかし、それがひとたび、敵対する立場の人間にむけられたばあいは、逆に遺体をできるだけ不完全にしようと努力するのであろう。それが遺体を切りきざむ行為としてあらわれる。

遺体が完全なままだとどうなるか。その遺体は悪鬼(悪霊)としてあの世に復活し、現世の人間に害をあたえると考えられたのであろう。

講談社、大形徹『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』P28-29

遺体をコマギレにすることの意味はここにあったのですね。これには驚きました。そして次の箇所でさらに驚くことになりました。

中国の刑罰には残酷なものが多いとされる。ぼく(頭に入れ墨する)・(鼻そぎ)・きゅう(割勢つまり去勢)・ちょ(のこぎりで足を切る)・さん(膝蓋骨〔ヒザのさら〕をとる)・抽脅ちゅうきょう(あばら骨を引きぬく)・鑿顚さくてん(頭のてっぺんに穴をあける、あるいは墨におなじ)・鑊亨かくほう(カマゆで)・腰斬・車裂きなどがあり、後世、金代にはじまるとされる陵遅刑は「肢体をくだききりみにし、身首処を異にす」というすさまじさである。(中略)

つまり、刑罰の残酷さを人々にみせつけ、恐怖の念をいだかせることにより、刑罰にかかるような悪事をはたらかないように心がけさせるというものである。実際、刑罰の執行者である為政者も、そう考えていたと思われる。

けれども、こういった刑罰にも、前述の意識が深層意識としてはたらいている。

そして、その意識は、相手が強力であればあるほど、つよくかつ執拗である。さきには子路のばあいがそうであり、ここでは猛将の彰越や韓信の一族がその災禍にかかっているのである。

美味だから脯醢ほかいをたべるのではないだろう。たべることは、切りきざむことの究極に存在する。たべることによって、相手の遺体を完全にこの世から消しさってしまうのである。そのことによって、おそらく相手はあの世に復活できなくなり、永遠に消滅するのだろう。

それは同時に、相手の強力な力を、自己の血肉のうちにとりこむことにもなる。フレーザーのいう類感呪術であり、首狩り族や人食い人種の習俗とも共通する深層意識であろう。

講談社、大形徹『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』P30-31

ここで語られた車裂きの刑は私にも記憶があります。人気漫画『キングダム』でもその処刑方法が描かれており、それを読んだ時の衝撃は今も残っています。そうした凄まじい処刑方法の深層意識にこうした肉体観、死生観があったとは驚きでした。

「たべることは、切りきざむことの究極に存在する。たべることによって、相手の遺体を完全にこの世から消しさってしまうのである。」という言葉も強烈ですよね。これは全く想像すらしていなかった発想でした。

ですがここで語られた肉体観を知ると、これまで見てきた中国の歴史がすっと腑に落ちるような感覚にもなりました。と言いますのも、中国の歴史を学んでいると、「そこまでする!?」という残酷な仕打ちが次々と出てきます。人豚(ひとぶた)という言葉が有名になった呂太后による残酷な殺害事件などはまさにその典型です。呂太后は戚夫人の両手両足を切断した上、目、耳、喉を潰して厠に投げ落としてそれを人豚と呼ばせたという衝撃の事件です。

こうした残酷な仕打ちの背景に、中国人の完全な肉体に対する強い執着があることがこの本では指摘されています。たしかにそう言われてみると納得です。

中国史は血なまぐさい殺戮がとにかく繰り返されます。そしてその背景にある死生観、肉体観を知れる本書は新たな視点をくれるおすすめの参考書です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「大形徹『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』あらすじと感想~中国の錬金術や死生観について知るのにおすすめ」でした。 

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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