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吉田一彦『古代仏教をよみなおす』あらすじと感想~仏教伝来と聖徳太子、天皇と国家について学ぶのにおすすめの参考書!

古代仏教
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吉田一彦『古代仏教をよみなおす』概要と感想~仏教伝来と聖徳太子、天皇と国家について学ぶのにおすすめの参考書!

今回ご紹介するのは2006年に吉川弘文館より発行された吉田一彦著『古代仏教をよみなおす』です。

早速この本について見ていきましょう。

仏教の伝来は、日本の国家形成や文化にいかなる影響を与えたのか。天皇号と日本国の誕生、聖徳太子の実像、行基の活動、女性の仏教信仰の実態などの重要テーマを軸として古代仏教史像の再構築を試みる格好の入門書。

Amazon商品紹介ページより
聖徳太子(※別人説もあり)Wikipediaより

本書は仏教の伝来とその受容の過程についてのわかりやすく解説された入門書となっています。特に聖徳太子についての解説は非常に興味深いです。私達が当たり前のように受け取っていた歴史が今や通用しないものになってしまったことに衝撃を受けると思います。これは刺激的です。

本書について著者ははしがきで次のように述べています。重要な提言がなされていますので少し長くなりますがじっくりと読んでいきます。

仏教史は、日本の歴史や文化を考える上で欠かすことのできない重要な分野である。古代史を考える上でも、仏教の問題をどう理解し、どう評価するかは大きな課題となっている。それは容易ではない難題であるが、また華やかで濃密な、魅力あふれる世界でもあって、現代人の心をもひきつけてやまないところがある。

六世紀の中頃、仏教はわが国に伝えられた。仏教は、それまで知ることのなかった高度で文明的な宗教であった。それは、文章化された教義と抽象的な思考を持つ宗教であり、体系的な儀礼や整えられた聖職者のシステムをそなえていた。また、洗練された美意識と最先端の技術に立脚した仏像・仏画や寺院建築をともなっていた。これ以後、わが国の人々は仏教という回路を通じて大陸の文化を受容し、仏教以外のさまざまな文物もこの回路を通じて吸収していった。仏教伝来の歴史的意義は大変大きい。やがて七世紀後期になると、仏教は日本列島の広い範囲に流通するようになり、急速に地域社会に浸透を開始していった。また、七世紀末に天皇制度に基づく国家が形成される際にも仏教は大きな役割をはたした。それゆえ、古代仏教史は、文化史を考える上でかなめとなるばかりでなく、社会史や国家史を考える上でも欠かすことのできないものとなっている。

私が古代仏教史をはじめて習ったのは小学生の時だった。五三八年、仏教伝来。そう習った。それから、仏教を受け入れるかどうかをめぐって蘇我氏と物部氏が争ったという話。聖徳太子と法隆寺の話。奈良時代になると、奈良の大仏や国分寺の話などを習った。中学高校の歴史・日本史では、奈良時代の仏教は「鎮護国家」の仏教であると学んだ。今も小中学生・高校生たちは、そうした歴史を習い、勉強していることと思う。

しかし、本書は、そうした常識的な歴史を疑い、批判し、時には否定して、新しい歴史像を求めようとするものである。もちろん、これまでの歴史理解をことごとく否定するというのではない。そのかなりの部分は、歴史的事実を伝えていると考えている。だが、歴史の根幹にかかわるような肝心かなめの部分で、歴史的事実とは認められないことがいくつかある。また、近年、新たに知られるようになった新知見もいくつかある。史実とは認められないことを一つ一つ取り除き、また新たに知られるようになったことを一つ一つ加えていくと、これまでとは大きく異なる、新しい歴史像が姿を現してくる。古代仏教史の個別研究は、近年着実に前進してきた。本書では、それらを大胆に取り入れて、新しい古代仏教史を構築したいと考えている。

仏教は、今日においても日本の中心的な宗教であり、日本は仏教国の一つに数えられると思う。ただ、今日の日本仏教は、他の仏教国の仏教とはかなり異なる、個性的な仏教となっている。この個性は、長い時間をかけて少しずつ形成されたものであって、最初から今のような日本仏教があったわけではない。歴史の中で、時の流れに応じるように、しだいに「日本的な」仏教が形づくられていった。古代の仏教は、朝鮮仏教・中国仏教の直輸入的な性格が色濃く、むしろ国際性に富むものであった。それがどのように変化をとげ、どのように個性化していったのか。このことを考えるには、日本の仏教を歴史的に考察しなければならないだろう。

吉川弘文館、吉田一彦『古代仏教をよみなおす』Pⅲ-ⅴ

この本ではまさに目から鱗の興味深い指摘がどんどんなされます。聖徳太子と国家形成の流れや神仏習合についての解説は特にそれが際立っています。ものすごく面白いです。

私は浄土真宗の僧侶です。浄土真宗の開祖親鸞は平安末期から鎌倉時代に生きた僧侶でした。開祖が生きた時代についてはよく宗門の講義や法話でよく聴く機会があるのですが、それよりもさらに遡った奈良平安以前の時代背景や仏教についてはなかなかそういう機会もありません。そんな私にとって日本仏教の礎ともなったこの時代の仏教と時代背景を知れたのは非常にありがたいものがありました。

著者の語り口も明快でとてもわかりやすくすらすら読んでいくことができます。日本仏教を学ぶ上の入門書としても非常におすすめです。ぜひぜひ手に取って頂きたい一冊です。

以上、「吉田一彦『古代仏教をよみなおす』~仏教伝来と聖徳太子、天皇と国家について学ぶのにおすすめの参考書!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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