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星野宏美『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』あらすじと感想~代表作スコットランド交響曲の成り立ちを詳しく解説するおすすめの1冊!

メンデルスゾーンのスコットランド交響曲
目次

名曲スコットランド交響曲の成り立ちを詳しく解説するおすすめの1冊!星野宏美『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』概要と感想

今回ご紹介するのは2003年に音楽之友社より発行された星野宏美著『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』です。

この解説動画の最初に紹介されているのがメンデルスゾーンの代表曲、交響曲第3番『スコットランド』です。

メンデルスゾーンの曲の中で私が最も好きなのがこのスコットランド交響曲です。その曲について詳しく解説してくれるこの本は私にとって非常にありがたいものでした。

では、早速この本について見ていきましょう。

自筆譜や書簡など、数々の原典資料にもとづき、スコットランド交響曲の着想から完成まで14年間の成立史を詳細に考察。他の交響作品との関連をも明らかにし、作曲家メンデルスゾーンの成長の軌跡をたどる。メンデルスゾーンの生涯と創作に迫る初の本格的研究書。


Amazon商品紹介ページより

ここで「メンデルスゾーンの生涯と創作に迫る初の本格的研究書」と書かれておりますように、この本はかなりかっちりとした作品です。

というのも、この本は著者の星野宏美氏の博士論文が基になって出来上がった本だからです。

著者は「はじめに」の文章で次のように述べています。

本書は、筆者の博士論文『メンデルスゾーンの「スコットランド」交響曲の成立史研究』に基づく。出版にあたってタイトルを『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』と改め、全体にわたって加筆、改稿した。とくに研究の前提を論じた序章は、一般読者を想定して大きく書き改めた。それでも、論文調の堅さが随所に残っているが、専門的な内容を扱った博士論文の本来的性格として理解していただきたい。論文は2000年3月31日に東京芸術大学に提出し、審査を経て2001年3月28日付で同大学より博士(音楽学)の学位を授与された。なお、論文執筆にあたっては2000年3月までに刊行された文献を参照した。それ以降、今日までに新しく発表された研究に関しては、本書の中ですべてを網羅することはせず、重要な情報に限って付け加えた。

メンデルスゾーンほど、ー般によく知られているにも拘わらず、創作の全貌を把握しにくい作曲家はいまい。演奏されるのはごく限られた作品であるし、《無言歌集》や《ヴァイオリン協奏曲ホ短調》などのポピュラーな作品でさえ、成立の事情や作曲技法の特徴を十分に講じた手引書がない。大学の卒業論文でメンデルスゾーンをテーマに選んだのは、高校時代に歌った彼の宗教曲に感動したから、という素朴な理由だったが、論文を書くプロセスでこの作曲家の学問的研究の必要性を強く認識することになった。

その後、大学院に進学し、1990年から1992年にかけてべルリンに留学する機会を得た。当時はまだ統合前だった東西2つの国立図書館で、メンデルスゾーン関連資料の膨大なコレクションを目の当たりにし、夢中になって読み進めた日々を思い出す。自筆譜をはじめとする原典資料の数々に直に触れたことは、とくに大きな刺激になった。折しもその頃、世界のメンデルスゾーン研究は、作曲家の没後150年(1997年)に向けて総力を結集しつつあり、新全集も具体化され始めていた。次世代の課題の大きさ、言い換えれば、将来的な展望の広さを実感し、メンデルスゾーン研究の深みに入り込んでいったのである。

大学院修士課程では、学部に引き続き宗教曲の研究に取り組んでいたが、博士後期課程の課題としては、より知名度の高い作品を取り上げ、堅実な論考を積み上げて作品の新しい見方を提示したいと考えた。結局、「スコットランド」交響曲に焦点をあてたが、これは14年の成立史を持つ大作である。博士論文はそれゆえ、交響的作品を軸に作曲家メンデルスゾーンの発展の軌跡を論じるものとなった。その意味で、本書は筆者が十数年来、取り組んできたメンデルスゾーン研究の集大成でもある。

音楽之友社、星野宏美『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』P1

少し長くなりましたが、この本がどのような経緯で出来上がったのかがここから伺えます。

そしてこの引用の前半部分にありましたように、この本は一般読者が読んでもわかりやすいように書き直されています。ですので私のように音楽の知識がない人でも気軽に読むことができます。

特に「スコットランド」交響曲が生まれるきっかけとなった、メンデルスゾーンのイギリス・スコットランド旅行についての箇所は非常に興味深いものでした。

メンデルスゾーンは1829年、彼が20歳の時にイギリス・スコットランドに大旅行に出かけます。

この時代の名家の跡継ぎたちは教養旅行(グランドツアー)という名目でヨーロッパ中を旅するという習慣がありました。若い頃に旅に出て経験を積み、さらには人脈も広げることも目的とされていました。

メンデルゾーンもそうした教養旅行の一環としてこのスコットランドを訪れたのでした。

そしてそこで目にしたある建築物から彼の「スコットランド交響曲」は始まることになります。

それがエディンバラのホリルード宮殿の廃墟となった礼拝堂でした。

ホリルード宮殿の廃墟となった礼拝堂 Wikipediaより

ここで得たインスピレーションから彼の13年にもわたる「スコットランド交響曲」の作曲の道が始まったのでした。

この本を読んで驚いたのは、メンデルスゾーンがいかにこの曲を大切にし、何度も何度も推敲して書き上げていたかということでした。

スコットランドで得たインスピレーションをそのまま一気に曲にして書き上げるのではなく、長い年月をかけてじっくりと作り上げていったということをこの本で知ることになります。

メンデルスゾーンにとって20歳のイギリス・スコットランド旅行がどんな意味を持っていたのか。

そしてその旅とはいかなるものだったのか。

この本を読めば実際にメンデルスゾーンが辿ったイギリス・スコットランドの風景を見てみたくなります。

大好きな「スコットランド交響曲」がいかにして生まれてきたかを知ることができて非常に楽しい読書になりました。

もちろん、私は音楽的な知識はほとんどありませんので、音楽の専門的なことは何もわかりません。楽譜もたくさん出てきますし、音楽研究という方向から書かれたものはさっぱりわかりませんでした。

ですが、音楽の専門家はこうやって曲を研究していくんだなという雰囲気は味わうことができました。音楽にほとんど触れてこなかった人間として、こういう本を読むのはとても新鮮で面白い体験でした。

メンデルスゾーンと旅について、いや、音楽に関わらずあらゆる芸術家と旅についても考えさせられる本となりました。

この本を読んでいて、教養旅行(グランドツアー)にも興味が湧いてきました。せっかくですので次の記事ではそんな教養旅行についての本を紹介したと思います。

『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』もぜひぜひおすすめしたい作品です。とても興味深い事実が満載でした。メンデルスゾーンをもっともっと好きになる1冊です。

以上、「星野宏美『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』代表作スコットランド交響曲の成り立ちを詳しく解説するおすすめの1冊!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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