MENU

春江一也『プラハの春』あらすじと感想~これを読めばプラハが好きになる!

目次

これを読めばプラハが好きになる!春江一也『プラハの春』あらすじと感想

今回ご紹介するのは集英社より1997年に発行された春江一也著『プラハの春』です。

この作品は私にとって思い入れのある作品です。

私は2019年の3月から80日をかけて13カ国を巡る旅に出ました。そしてその中にチェコのプラハが目的地の一つとしてあったのです。そしてこの旅で出会った素晴らしい街達の中でも一番好きになったのがこのプラハだったのです。

あわせて読みたい
プラハ旅行記おすすめ記事一覧~観光スポットや歴史や文化をご紹介!【僧侶上田隆弘の世界一周記】 チェコといえば何と言っても百塔の街プラハ。 文化の香る中世の街並みと美しきモルダウの流れ。 ここは私の旅の中で最も気に入った街です。 治安も良く、食べ物もおいしく、そして何より美しい! どこを歩いてもうっとりするほどの景色。 街全体が博物館と呼ばれるほど、この街の景観は素晴らしいです。 チェコ編ではそんなプラハの魅力をこれでもかと紹介していきます。

私はこの旅に出る数か月前、「プラハに行くならこれを読んでおかないと」とこの作品を手に取っていたのでした。そしてこの本で語られるプラハの美しさに魅了されてしまったのです。この作品ではプラハの歴史や文化、その精神性が実に巧みに描かれています。私はこの作品を読んだからこそ現地でよりその魅力を感じることができたのではないかと感じています。それほどこの作品はプラハの魅力を余すことなく伝えています。

では、作品の内容に入る前に著者のプロフィールを見ていきましょう。

春江一也

1962年外務省入省。68年チェコスロバキア日本国大使館に在勤中、「プラハの春」の民主化運動に遭遇。ワルシャワ条約軍侵攻の第一報を打電する。その後、在東ドイツ大使館、在べルリン総領事館、在ジンバブエ大使館、在ダバオ総領事館に勤務。在外勤務当時の体験を基にした『プラハの春』でデビュー、反響を呼ぶ。著書に『べルリンの秋』『ウィーンの冬』(中欧三部作)、『カリナン』『上海クライシス』がある。

集英社、春江一也『プラハの春』より

この作品の著者が実際に「プラハの春」を体験したというのはものすごいことですよね。それを基にして描かれた小説が『プラハの春』ということで、当時のプラハの雰囲気を知る上でも非常にありがたい作品となっています。

さて、この作品のあらすじを見ていきましょう。

1967年3月、プラハ。チェコスロバキアは共産主義の抑圧から脱し、経済改革と自由化への気運を高めつつあった。そのさなか、堀江亮介はビーナスのようなカテリーナ・グレーべと出会った。だが、亮介は日本国大使館員、カテリーナは東ドイツ人の反体制活動家。東西対立の最前線の地では、禁断の愛だった一現役外交官が自らの体験をもとに描いた、国際ラブ・ロマン。(上巻)

Amazon商品紹介ページより
燃えるソ連の戦車と国旗を掲げるチェコスロバキアの人々 Wikipediaより

この作品は「プラハの春」事件が起きる1年前から物語が始まります。

主人公は日本の若手外交官でプラハの駐在員です。主人公の堀江はごく普通の青年(といってもエリートですが)として描かれますが、まるで出来過ぎたメロドラマのように彼は絶世の美女カテリーナと出会うことになります。

そして、彼女との出会いから亮介は複雑で緊迫したプラハ情勢の現場に足を踏み入れていくことになります。

私たち読者はこの小説を通して当時のチェコが置かれた状況を知っていくことになります。私自身もこれを読んだ当時はソ連のことをほとんど知りませんでした。プラハの春という出来事すらも名前くらいしか聞いたことがなかったくらいです。ですが著者が物語の中で丁寧に解説してくれるのでその辺りの歴史が非常にわかりやすかったです。前知識がなくても十分この作品は楽しめます。いや、むしろそういう知識のない方ほど当時のチェコ情勢を知ることができて非常に興味深いと思います。

そして、この作品で一番印象に残っているのは何と言ってもこのセリフです。

それにしても美しい。プラハはなぜこんなに美しいのか!

集英社、春江一也『プラハの春』下巻P43

プラハはこの一言に尽きます!

私自身実際にプラハを訪れて何度この言葉が頭をよぎったことか!

これほど見事にプラハの魅力を言い当てた言葉がほかに存在するでしょうか。

ため息がでるほどの美しさ。そしてそのため息と共に、この言葉が思い出されるのがプラハなのです。

あぁ、また行きたいです、プラハ。本当に素晴らしい街でした。この本はそんなプラハの魅力を感じられる一冊です。ただ単に景色や建物が美しいとかそういう話ではなく、歴史や文化、精神性も含めたプラハの美しさ、それを味わうことができます。この小説はこれからプラハを訪れようとしている人には必読な一冊だと思います。ぜひおすすめしたいです。

ただ、一点だけどうしても気になることもあります。カテリーナとの恋があまりに出来過ぎていて、そこは読んでいてちょっと一歩引いてしまう自分がいました。才色兼備、しかも国を背負うほどの人物である絶世の美女カテリーナ。そんな女性がなぜに日本の若手外交官に熱烈に恋するのだろうか、そして最終盤の礼拝堂での別れのシーン・・・これはあくまで私個人の感想ですので作品の良し悪し云々ではありません。ただ、もしかしたら私と同じ思いを抱く人がいるかもしれないので、あえてここに書かせて頂きました。

作品としては非常に面白い物語でした。目まぐるしく展開も動き、読んでいて引き込まれてしまいます。そして当時のプラハ情勢も知れる非常に優れた作品だと私は思います。

クンデラの『存在の耐えられない軽さ』と共に「プラハの春」当時のプラハを知るには最適の作品です。

そしてプラハの魅力を知るための入門書としてぜひおすすめしたいです。

「それにしても美しい。プラハはなぜこんなに美しいのか!」という世界をこの本では体感できます。この本を読めばまずプラハを好きになること請け合いです。プラハ好きはもっともっとプラハを好きになることでしょう。ぜひ読んでみてください!

以上、「春江一也『プラハの春』あらすじと感想~これを読めばプラハが好きになる!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

プラハの春 上 (集英社文庫)

プラハの春 上 (集英社文庫)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
V・ハヴェル『力なき者たちの力』あらすじと感想~チェコ大統領による必読エッセイ~知らぬ間に全体主義... この本は衝撃的な1冊です。私が今年読んだ本の中でもトップクラスのインパクトを受けた作品でした。元々プラハの春に関心を持っていた私でしたが、この本を読み、あの当時のプラハで何が起こっていたのか、そしてそこからどうやってソ連圏崩壊まで戦い、自由を勝ち取ったのかという流れを改めて考え直させられる作品となりました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
クンデラ『存在の耐えられない軽さ』あらすじと感想~プラハの春以後の共産主義支配の空気を知るために 私がこの作品を読もうと思ったのは「プラハの春」以後のプラハの雰囲気を知るためでした。この作品ではプラハの知識人たちが負うことになった苦難の生活の雰囲気をリアルに知ることでできます。また、この作品の中盤以降は特にこうしたソ連による支配に対する著者の分析が小説を介して語られます。これはかなりの迫力で息を呑むほどです。

美しきプラハを訪ねた旅行記はこちら

あわせて読みたい
プラハ旅行記おすすめ記事一覧~観光スポットや歴史や文化をご紹介!【僧侶上田隆弘の世界一周記】 チェコといえば何と言っても百塔の街プラハ。 文化の香る中世の街並みと美しきモルダウの流れ。 ここは私の旅の中で最も気に入った街です。 治安も良く、食べ物もおいしく、そして何より美しい! どこを歩いてもうっとりするほどの景色。 街全体が博物館と呼ばれるほど、この街の景観は素晴らしいです。 チェコ編ではそんなプラハの魅力をこれでもかと紹介していきます。

「プラハの春」についてもっと詳しく知るためのおすすめの参考書はこちら

あわせて読みたい
「プラハの春」とは何かを学ぶのにおすすめの参考書10冊を紹介~ロシア・ウクライナ侵攻を考えるためにも この記事では以前当ブログでも紹介した1968年の「プラハの春」ソ連軍侵攻事件(チェコ事件)について学ぶためのおすすめの参考書をご紹介していきます。 現在、ロシアによるウクライナ侵攻が危機的な状況を迎えていますが、ソ連、ロシア、東欧の歴史を知る上でも「プラハの春」事件は非常に重要な意味を持っています。 大国に囲まれながらも誇り高い文化、歴史を紡いできたチェコという国を学ぶことは私たち日本人にとっても非常に意味のあることだと思います。

関連記事はこちら

あわせて読みたい
『「連帯」10年の軌跡 ポーランド・おしつぶされた改革 チェコスロバキア 』あらすじと感想~プラハの春... この本は冷戦末期のポーランド情勢とプラハの春に特化した本で、全270ページある中でそれぞれがちょうど半々ほどで語られます。 プラハの春についてだけで100頁以上も解説してくれる本は意外と数が少なく、こうした充実した解説は非常にありがたいものでした。
あわせて読みたい
V・セベスチェン『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』あらすじと感想~共産圏崩壊の歴史を学ぶのにおすすめ... セベスチェンの作品はとにかく読みやすく、面白いながらも深い洞察へと私たちを導いてくれる名著揃いです。 この本は、世界規模の大きな視点で冷戦末期の社会を見ていきます。そして時系列に沿ってその崩壊の過程を分析し、それぞれの国の相互関係も浮かび上がらせる名著です。これは素晴らしい作品です。何度も何度も読み返したくなる逸品です
あわせて読みたい
ジョセフ・クーデルカ『プラハ侵攻1968』あらすじと感想~傑作写真集!プラハ市民はいかに戦車と向き合... この本は写真家ジョセフ・クーデルカによるソ連のプラハ侵攻の様子を収めた写真集です。 美しいプラハの街に大量の戦車と完全武装の軍人たちが押し寄せ、武力で制圧。 これにより、抑圧からの自由を求めたプラハの春は完全に終焉を迎えることになってしまいました。 その緊迫したプラハ情勢をリアルに体感できるのがこの作品です。
あわせて読みたい
V・ハヴェル『力なき者たちの力』あらすじと感想~チェコ大統領による必読エッセイ~知らぬ間に全体主義... この本は衝撃的な1冊です。私が今年読んだ本の中でもトップクラスのインパクトを受けた作品でした。元々プラハの春に関心を持っていた私でしたが、この本を読み、あの当時のプラハで何が起こっていたのか、そしてそこからどうやってソ連圏崩壊まで戦い、自由を勝ち取ったのかという流れを改めて考え直させられる作品となりました。
あわせて読みたい
プラハの歴史、文化を知るのにおすすめの本を一挙紹介!愛すべきプラハの尽きない魅力を紹介 私は2019年にプラハを訪れ、その魅力に見事にやられてしまった人間です。あまりの美しさ、あまりの居心地のよさにすっかりこの街に恋してしまったのでした。 この記事で紹介するのは様々な本を読んだ中でも、特に皆さんにお薦めしたい本です。これらの本を読めば必ずやもっともっとプラハの魅力を感じることになるでしょう。


あわせて読みたい
ローラン・ビネ『HHhH』あらすじと感想~ナチス占領下プラハでのナチ高官暗殺作戦を描く傑作小説! この作品も非常におすすめです!歴史を学ぶために手を取ったこの作品でしたが、そもそも小説としてのクオリティーが尋常ではありません。刺激的で面白い小説をお探しの方にもかなりぐっとくるものがあると思います。暗殺シーンや最後の戦闘シーンなんてもう映画のようです。手に汗握る描写です。これはぜひとも体感して頂きたいです。
あわせて読みたい
ひのまどか『スメタナ―音楽はチェコ人の命!』あらすじと感想~『モルダウ』で有名なチェコ音楽家のおす... この伝記は非常におすすめです。本紹介に「全6曲の『わが祖国』をはじめ、耳の病に苦しみつつも大きな成功を得たスメタナの前向きな生きる姿を感動的に描く」とありますように実際私もうるっと来てしまいました。これは素晴らしい伝記です。ぜひぜひ読んで頂きたい逸品です!この本に出会えて本当によかった!!最高です!!
あわせて読みたい
カフカおすすめ作品一覧~プラハが生んだ天才作家の魅力をご紹介! 「プラハといえばカフカ」というくらい、カフカは有名な作家ですよね。 彼の代表作『変身』は世界中で最も読まれた小説のひとつと言うことができるでしょう。私もカフカの不思議な世界観が大好きです。 この記事ではそんなカフカのおすすめ作品とカフカをもっと知るためにおすすめの解説書をご紹介します。
あわせて読みたい
チェコの天才チャペックのおすすめ作品一覧~チェコ文学はカフカのみにあらず! チェコ文学はカフカのみにあらず。 恐るべき人物がここにいました。 カレル・チャペックの作品は衝撃の面白さです。 『ロボット』『山椒魚戦争』『白い病』など、この記事ではそんなチャペックのおすすめ作品を紹介していきます。それぞれのリンク先でより詳しくお話ししていきますのでぜひそちらもご覧ください。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメント一覧 (2件)

  • プラハの春、私は宝塚歌劇で感激し、原作を読みました。
    おっしゃる通り、とても素敵な作品でした。
    ステイホーム期間中の課題図書にもしました。

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次