村上隆『金・銀・銅の日本史』概要と感想~古代日本の金属加工の歴史や驚異の技術力を知るのにおすすめ!

村上隆『金・銀・銅の日本史』概要と感想~古代日本の金属加工の歴史や驚異の技術力を知るのにおすすめ!
今回ご紹介するのは2007年に岩波書店より発行された村上隆著『金・銀・銅の日本史』です。
早速この本について見ていきましょう。
その輝きで人々を魅了し続けてきた「金・銀・銅」は,贅沢な装飾品として,通貨として,歴史を動かす「富」そのものであった.そしてそのいずれについても,かつて日本は豊かな産出量を誇り,採鉱,精・製錬,金属加工の技術は,驚くべき高みに達していた.豊富な例を挙げながら,古代にはじまる「モノ作り」の手わざの跡をたどる.(カラー口絵2頁)
岩波書店商品紹介ページより
本書『金・銀・銅の日本史』は知っているようで実はなかなか知らない金・銀・銅の歴史を知れる刺激的な一冊です。
本書冒頭ではこの金属の歴史について次のように述べられています。
人類の歴史の中で、「金・銀・銅」にまつわる話題は、それこそ枚挙に暇がないが、いつの時代でも、どの地域においても、人類が、「金・銀・銅」に対して望んだことは、次の二つに集約されるだろう。
第一に、「金・銀・銅」は、形とか見かけを装わなくとも、素材だけでも十分な価値を持つ。したがって、何はともあれ、大量の「金・銀・銅」を産出し、それを保有したい。
第二に、「金・銀・銅」という素材を活かして、さまざまな器物や装飾品などに加工し、華麗な付加価値を加え、さらにその重要度を増したい。
理想的には、この二つがともに備わって両輪となって機能することを、人類は「金・銀・銅」に望んだのである。
しかし、この二つの望みをかなえるためには、それぞれ高度な技術を要する。
第一の望みのためには、「金・銀・銅」を地球から得る技術が必要である。これを本書では、「第一の技術」と呼ぶことにしよう。そして、第二の望みのためには、素材としての「金・銀・鋼」を加工して、「モノ」を作り出す技術が伴わなくてはならない。これを、同様に「第二の技術」とする。
人類と「金・銀・銅」の関わりの基本は、この二つの技術をいかに獲得していくか、という技術の歴史でもある。
岩波書店、村上隆『金・銀・銅の日本史』Pⅲーⅳ
私たちは「金・銀・銅」の歴史とポンと言われてもなかなかイメージしにくいものがありますが、こうして「第一の技術」「第二の技術」という道筋を示してくれると一気にわかりやすくなりますよね。
そして日本の歴史においては弥生時代に朝鮮や中国から鉄器や青銅器がやってきますが、ここに日本の「金・銀・銅」の歴史において特殊な事情が発生してきます。つまり本来ならば金などを地球から見つけて金を生成する「第一の技術」から発展すべきところ、それを飛ばしていきなり「第二の技術」がやって来たということになります。
こうした背景の下、日本の歴史の中で「第一の技術」「第二の技術」がどのようにして定着していったかをこの本では学ぶことができます。
本書では図版なども多く掲載されていますので視覚的にもとてもわかりやすく解説が進んでいきます。
その中でも特に印象に残ったのは古墳時代の耳飾りについての箇所です。せっかくですのでその箇所を引用します。
見えないところに腕を振るうのが工人の粋、なんて酒落たことをいっている場合ではない。細かい部材を複合して材料の特性を向上させる知恵は、それこそ現代工学のめざすところである。(中略)
それにしても、私が電子顕微鏡でようやく確認できるほどの細かい作業を、手元を照らすライトもなく、拡大するルーぺもなく、満足な道具もないような状態で、簡単に仕上げてしまう古代の工人たちはどんな連中なのだろうか。すべて手の技でこなす工人の超人ぶりには脱帽するしかない。
六世紀から七世紀初頭にかけて、現代の工業技術の根幹となるような技術の基本のほとんどは登場していると見てよいことが、一見シンプルな形態をした耳環の調査研究を通して、見えてくるのである。
岩波書店、村上隆『金・銀・銅の日本史』P42-43
当ブログでもこれまで古墳について多くの本を紹介してきましたが、たしかにこの時代に作られたとされるイヤリングなどの装飾品はとてつもなく精密で美しいものが多いです。
私もそんな美しいイヤリングを見るために昨年韓国釜山を訪れました。そこで見た耳飾りがこちらです。

いかがでしょうか。こちらは釜山の福泉洞古墳出土の耳飾りなのですが、渡来人はこうした技術をすでに5、6世紀に持っていたのです。この時の体験は「対馬からフェリーで釜山へ!渡来人の究極のイヤリングに度肝を抜かれる」の記事で詳しくお話ししていますのでぜひそちらもご参照頂ければと思います。
そしてそこから本書では仏教伝来にも話題が及び、この仏教伝来によって「金・銀・銅」の歴史が新たなフェーズに至ったと説かれます。
また、
外来の力を借りながらも、東大寺の大仏を作り上げたことをもって、日本において「金・銀・銅」を扱う技術は、ほぼ完全に定着したと見てよい。
岩波書店、村上隆『金・銀・銅の日本史』P84
と説かれていたのも印象的でした。あの東大寺大仏の制作によって日本の金属技術が定着したというのはとても興味深いですよね。
この箇所を読んでふと思い出したのが以前当ブログでも紹介した武者小路穣著『天平芸術の工房』です。この本でも東大寺大仏制作という巨大プロジェクトによって工人たちの技術が飛躍的に高められ、後の仏像、絵画、伽藍制作に大きな影響を与えたと書かれていました。
そう考える東大寺大仏というのはまさに国家の技術の粋を結集し、そこから国を発展せんとしたエネルギーに満ちた大プロジェクトだったことに思いを馳せざるをえません。
本書『金・銀・銅の歴史』はここから先の近代に至るまでの大きな歴史を見ていくことができます。普段なかなか考えることのないこうした貴金属の歴史を知れてとても刺激的な読書になりました。また「金属と仏教」という新たな視点を得られたことも私にとって実にありがたかったです。ぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「村上隆『金・銀・銅の日本史』概要と感想~古代日本の金属加工の歴史や驚異の技術力を知るのにおすすめ!」でした。
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