リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』概要と感想~人間存在の根源を問う刺激的な名著!

リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子〈増補新装版〉』概要と感想~人間存在の根源を問う刺激的な名著!
今回ご紹介するのは2006年に紀伊國屋書店より発行されたリチャード・ドーキンス著、日高敏隆、岸由二、羽田節子、垂水雄二訳の『利己的な遺伝子〈増補新装版〉』です。
早速この本について見ていきましょう。
私たちはなぜ、生き延びようと必死になり、なぜ恋をし、なぜ争うのか?――
本書で著者は、動物や人間の社会で見られる、親子間の対立や保護行為、夫婦間の争い、
攻撃やなわばり行動などがなぜ進化したかを、遺伝子の視点から解き明かす。自らのコピーを増やすことを最優先とする遺伝子は、いかに生物を操るのか?
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生物観を根底から揺るがす衝撃の事実を快刀乱麻の筆致で鮮やかに描き出すことに成功した本書は、
1976年の刊行以来、分野を超えて多大な影響を及ぼし続けている古典的名著である。
本書はこの商品紹介にありますように、もはや古典の王道とも言えるベストセラー中のベストセラーです。
1976年の刊行からすでに50年近くが経ち、科学や研究が進んだ今読んでも新鮮な驚きが満載の名著です。
本書巻末にこの作品についての書評が掲載されていて、これがとてもわかりやすかったのでまずはこちらをご紹介します。
W・D・ハミルトン『サイエンス』一九七七年五月一三日(抜粋)
この本はほとんどすべての人に読まれるべきものであり、また読むことができる。進化の新しい局面がきわめて巧みに記述されているのだ。近年、新しいしかし時として誤った生物学を大衆に売りこんできた、あまりごたごたとしない軽妙なスタイルをたぶんに保ちながらも、本書は、私の意見によれば、はるかに本格的な内容になっている。最近の進化思想の、かなり難解でほとんど数学的ともいえるいくつかのテーマを専門用語を使わずやさしい言葉で提示するという一見不可能とも思える課題を、みごとになしとげているのだ。それらのテーマを広い視野に位置づけた本書を読み通すと、最後には、そんなことはとっくに知っていると思ってきたかもしれない多くの生物研究者にさえも、驚きと活力を与えることだろう。少なくとも評者にはそうだった。しかし、くりかえしておくが、本書は科学に対する最小限の素養さえあれば、だれにでもたやすく読めるものになっている。
紀伊國屋書店、リチャード・ドーキンス著、日高敏隆、岸由二、羽田節子、垂水雄二訳『利己的な遺伝子〈増補新装版〉』P514
私達ひとりひとりの基となっている遺伝子・・・。
知っているようで知らないこの遺伝子の仕組みについてドーキンスは次々と刺激的な説を提唱します。
まさに『利己的な遺伝子』というこのタイトルからして刺激的ですよね。
そもそも遺伝子に利己的とか利他的という意思があるのか?
生物が自分の生存や利益を無視して利他行動を取るなどあり得るのか、仮にしたとしてどうしてそんな一見非合理的なことをするのか。
こうした「よくよく考えてみると不思議な命題」についてドーキンスは具体的に様々なデータや実験結果を示しながら解説していきます。専門的な内容をそのレベルを落とさずに一般読者に伝えることがどれだけ困難なことかはきっと多くの人がご存じのことでしょう。一般読者にもわかりやすく解説するドーキンスの語り口には驚くほかありません。
私自身この本がひとつの文学作品のようにすら読めてしまったことを強く覚えています。とにかく面白いのです。この本が世界中の幅広い読者に支持されたのも頷けます。専門的な内容を語りながらも多くの人にインスピレーションを与えたこの本はやはり名著中の名著であることは間違いありません。
そしてこのドーキンスについてですが、もう1冊有名な本として『神は妄想である―宗教との決別』を世に問うています。

この本はタイトル通り神の存在やその信仰に対して痛烈な批判をしていきます。これは僧侶である私にとっても心して読まねばならぬ本であり、この本に対しどう答えるのかと頭をフル回転して読むことになりました。
ただ、この本はドーキンスの住む西欧文化圏が前提となっていますので彼の言う「神」の概念はキリスト教などの一神教的なものを対象としています。
仏教は全知全能の創造神としての神を立てませんのでそこがドーキンスの批判対象から少しずれるように私としては感じたのですが、それでもなお宗教に対するここまでストレートな批判はなかなか強烈なものがあります。
「宗教をアヘン」と述べたマルクス主義が宗教を批判するのはこれまでもよくありましたが、進化の専門家がその目線から批判するというのは私にとってもまた違う切り口での批判であり、より厳しいものを感じました。
ただ、以前当ブログでも紹介しましたフランス・ドゥ・ヴァール著『道徳性の起源』にありましたように、進化の過程で人間の中に宗教が生まれたという考え方もあるのも事実です。また、前回の記事で紹介した『モラルの起源』も人間の道徳や良心、利他的行為の起源について説かれたものでした。このようにドーキンスも進化の過程から道徳や利他的行為を考察し、その上で宗教批判を展開しましたが、だからといってそれが絶対的に正しいというわけではありません。あくまでそれはドーキンスの説です。
とはいえ私は僧侶としてドーキンスの宗教批判を大切にしています。そうした批判に対して自分がどう思い、どう生きていくかが試されているように思えるからです。ドーキンスの『利己的な遺伝子』や『神は妄想である』は私が2019年に「宗教とは何か」をテーマに旅に出る少し前に読んだ本です。

私はこうした本を読んだ上で旅に出、それから帰国した今も研究を続けています。
ドーキンスの著作は私達の脳内にものすごい刺激を与えてくれます。進歩が著しい科学の分野で時代を経ても愛読され続ける作品というのは本当に貴重だと思います。
ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』概要と感想~人間存在の根源を問う刺激的な名著!」でした。
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