土門拳『土門拳の古寺巡礼』概要と感想~独特の視点で切り取られた迫力ある写真が魅力!昭和を代表する仏像写真家の写真集
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土門拳『土門拳の古寺巡礼』概要と感想~独特の視点で切り取られた迫力ある写真が魅力!昭和を代表する仏像写真家の写真集
今回ご紹介するのは2011年に株式会社クレヴィスより発行された土門拳著『土門拳の古寺巡礼』です。
早速この本について見ていきましょう。
永遠の光を放つ名作
戦時中に全国の古寺を巡り、車椅子になっても撮影を続けた不屈の写真家・土門拳の永遠の名作を「ぼくの好きなもの」「古寺巡礼」「仏像行脚」「母なる寺・室生寺」の4部構成で一望する。昭和15年~53年までの代表作171点と名エッセイを収録。あとがきに宗教学者・山折哲雄、美術家・横尾忠則、八王子夢美術館館長・伊藤由美子。
株式会社クレヴィスホームページより
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本書の著者土門拳は前回の記事「入江泰吉『昭和の奈良大和路 昭和20~30年代』概要と感想~戦後まもなくの奈良の様子を知れるおすすめ写真集」で紹介した写真家入江泰吉と双璧を成す昭和の仏像写真家です。
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私が本書『土門拳の古寺巡礼』を手に取ったのも入江泰吉の時と同じく、碧海寿広著『仏像と日本人』という本がきっかけでした。この本の中で土門拳が紹介されていたのです。
土門拳(一九〇九~九〇)と入江泰吉(一九〇五~九二)。いずれも、没後から四半世紀以上が過ぎた現在に至るまでファンの多い、著名な写真家である。日本の古寺や仏像を好む人間であれば、この二人の写真家には、どこかで必ず出逢うことになる。後述のとおり、彼らの写真家としての生き方や、その作風は、ほぼ対照的といってよいほどに異なっていた。にもかかわらず、仏像写真家としての彼らの内面には、共通した心模様を読み取ることもできる。そこには、仏像写真の実践と作品が人間にもたらす、独特の経験の世界が広がっていた。
中央公論新社、碧海寿広『仏像と日本人 宗教と美の近現代』P154
『仏像と日本人』ではこの後土門拳と入江泰吉について詳しく解説されていくのですが、上の引用にもありますように「彼らの写真家としての生き方や、その作風は、ほぼ対照的といってよいほどに異なっていた」というのは非常に重要なポイントです。
たしかに土門拳と入江泰吉の写真は全く異なります。これは両者の写真を比べてみればすぐにわかります。
株式会社クレヴィスのホームページでは本書の試し読みができますのでぜひそちらを見て頂きたいのですが、土門拳の仏像写真には独特な構図で切り取られたアップの写真が多いです。
この記事でそれをそのまま紹介できないのは残念ですが、上のリンク先や本書を読めば一発でそれはわかります。
この独特なアップの写真について、本書では次のように書かれています。
土門拳は「ぼくの好きなもの」として、「建築では懸崖造りの三仏寺投入堂、薬師寺三重塔、室生寺五重塔、高山寺石水院」を挙げ、仏像については「木像では神護寺本堂の薬師如来」「金銅仏では薬師寺東院堂の聖観音」「石仏では臼杵の磨崖仏群」と記した。
その理由を、これらが「豪壮で強い」、さらに「非常に個性的」であるからとしている。この二つは土門作品のキーワードである。こうして土門はみずから惹かれるものを凝視し、「ここ!」と思うところにカメラを向け、クローズアップして切り取った。たとえば薬師寺三重塔に対しては、六層の屋根の部分だけを撮影し、「薬師寺三重塔全景」として発表した。土門の作品からは、写真家の魂に深く食い込んだものが何であったのか、ひと目で見てとれる。
株式会社クレヴィス、土門拳『土門拳の古寺巡礼』P4
「土門はみずから惹かれるものを凝視し、「ここ!」と思うところにカメラを向け、クローズアップして切り取った。」
まさにこれです。
土門拳の写真集で驚くのは、わかりやすく全体像が写った資料集的な写真がほとんどないという点です。まさに「ここ!」という、土門自身のピントが捉えたその1点を私達にぶつけてきます。
こうした土門の視点が強烈に反映された写真に多くのファンがついたのもよく頷けます。ただ、逆に言えばそれは「好みが別れる」ということにもなるでしょう。ハマる人はとことんハマる魅力が詰まった写真とも言えるかもしれません。
これに対して入江泰吉は前回の写真集にもありましたように、見えたもののそのままを写し取ろうとします。つまり、土門とは異なり、自らの我を消すようなスタイルの写真が多いです。これも言葉だけではなかなか伝わりにくいですが、写真を見て比べてみれば感じられると思います。
こうした土門拳と入江泰吉の撮影スタイルの違いを感じながら写真集を見ていくのも興味深かったです。
そして私自身、この写真集の中の三十三間堂の仏像群や百済観音像の手のアップには痺れました。まさに「ここ!」です。「そう!それなんだよ!」と私も思わず呻かずにはいられませんでした。私も現地でそこにずっと目が行っていたポイントでした。やはり仏像好きの魂に響く強烈な写真がここにあります。
また、土門拳の写真集として『土門拳の室生寺』という写真集もぜひおすすめしたいです。
土門拳は室生寺を愛し、その写真を撮り続けました。
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『土門拳の室生寺』では奈良の山奥に佇む美しき古寺の姿をたっぷりと堪能することができます。この写真集を見れば行きたくなること間違いなしです。私も絶対にここに行こうとすでに計画を練り始めています。それほど魅力的です。土門拳がこれほどまでにこのお寺を愛したというのもわかる気がします。写真だけでもそれが伝わってくるのですから現地に行けばきっとそれをもっと感じることでしょう。今から楽しみです。
入江泰吉とセットでぜひおすすめしたい写真集です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「土門拳『土門拳の古寺巡礼』概要と感想~独特の視点で切り取られた迫力ある写真が魅力!昭和を代表する仏像写真家の写真集」でした。
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