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高橋修『熊谷直実 中世武士の生き方』概要と感想~武士の彼がなぜ法然に弟子入りしたのだろうか。その意外な新事実とは

熊谷直実
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高橋修『熊谷直実 中世武士の生き方』概要と感想~武士の彼がなぜ法然に弟子入りしたのだろうか。その意外な新事実とは

今回ご紹介するのは2014年に吉川弘文館より発行された高橋修著『熊谷直実 中世武士の生き方』です。

早速この本について見ていきましょう。

治承・寿永の内乱における劇的な生き方が多くの伝説を生み、物語として語り継がれてきた熊谷直実。武蔵国熊谷郷を本拠に起った新興の小さな武士は、栄光と挫折の人生を味わい、やがて出家を遂げ法然の門を叩く。なぜ武士身分として生涯を貫徹できなかったのか。彼の苦悩や行動の真意を当時の社会や信仰の世界から探り、中世武士とは何かを考える。

吉川弘文館商品紹介ページより
軍扇を持つ熊谷直実と平敦盛 Wikipediaより

熊谷直実(1141-1207)といえば、あの『平家物語』でも屈指の人気を誇る武士です。

自分の息子ほど若い平敦盛を泣く泣く手にかけねばならなかった直実。このエピソードは時代を超えて語り継がれてきた名シーンです。『平家物語』については以前当ブログでも紹介した板野博行著『眠れないほどおもしろい平家物語』が入門書としてとてもおすすめです。『平家物語』の全体像をこの本で知った上でこのエピソードを読むとさらに味わい深くなるのでぜひ合わせて手に取って頂きたい名著となっています。

さて、本書『熊谷直実 中世武士の生き方』ですが、この本を読んで私も驚きました。なぜなら、通説では熊谷直実が自分の息子ほどの平敦盛を殺さねばならなかった世の無常に悩み出家したとされていますが、実はことはそれほど単純なものではなかったことがこの本で明らかにされます。

熊谷直実は源頼朝に仕えて源氏軍として戦ったのは周知の通りです。そしてその軍功も大きなものがありました。

しかしいかんせん彼は下級武士に過ぎなかった・・・。頼朝は多くの兵力を集めるために様々な出身の武士を取り立てましたが、戦乱が終わり国を統治する時期に入るとやはりその恩恵に預かるのは元々地域を代表していた上級武士たちだったのです。

こう言ってしまえば「結局階級次第か」と思われてしまうかもしれませんが、よくよく考えてみると上級武士はそもそも領主階級です。つまり国の統治のノウハウを知っているわけです。戦乱後の混乱期に各地の治安維持や円滑な復興を目指すにはやはりこうしたノウハウや実力を持っている上級武士に託さざるをえないという現実的な問題があります。

しかしそこは熊谷直実。真っすぐすぎるこの男はこうした原理に納得いきません。そして自身の所領問題でもトラブルに見舞われることになります。

この本ではそんな熊谷直実が武士の道を捨て出家の道を選んだ道筋が語られます。特に頼朝とのやりとりは非常に興味深いものがありました。

また、当時の武士団がどのような価値観で動いていたのかということも本書では学ぶことができます。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のような上位階級の武士と熊谷直実のような下級武士ではその待遇や価値観も異なります。そうした武士間の溝についても本書では知れます。これは意外な視点でした。

熊谷直実は法然教団の弟子として出家しました。そして彼の影響で北関東の有力御家人宇都宮頼綱も法然教団に帰依することになります。そしてさらに、この宇都宮氏の影響で親鸞聖人が関東にやって来た可能性もあるのです。

そう考えると熊谷直実が法然教団に帰依したことで関東に法然流の念仏の種がまかれたということになるかもしれません。

そうした意味でもこの熊谷直実を学ぶことは大きな意味があるのではないかと私は考えています。ぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「高橋修『熊谷直実 中世武士の生き方』概要と感想~武士の彼がなぜ法然に弟子入りしたのだろうか。その意外な新事実とは」でした。

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熊谷直実 中世武士の生き方 (歴史文化ライブラリー)

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熊谷直実

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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