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神田千里『顕如』概要と感想~本願寺教団はなぜ戦国時代に信長と戦えるほど巨大化したのか。その歴史的背景を知れるおすすめ伝記

顕如
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神田千里『顕如 仏法再興の志を励まれ候べく候』概要と感想~本願寺教団はなぜ戦国時代に信長と戦えるほど巨大化したのか。その歴史的背景を知れるおすすめ伝記

今回ご紹介するのは2020年にミネルヴァ書房より発行された神田千里著『顕如 仏法再興の志を励まれ候べく候』です。

早速この本について見ていきましょう。

十六世紀後半、当時大坂にあった本願寺の第十一代法主に就任した顕如は、本願寺領国となっていた加賀国の大名でもあった。戦乱の時代に教団存続のため門徒を率いて織田信長らと対峙した宗教者の生きざまを描く。

Amazon商品紹介ページより
本願寺11代門主顕如(1543-1592)Wikipediaより

顕如は石山合戦で織田信長軍と戦った本願寺の門主として有名な人物です。

この本では戦国時代になぜ本願寺は織田信長と10年近くも戦えたほど強力な存在だったのかを知ることができます。

宗教は宗教だけにあらず。まさにこの時期の本願寺は室町幕府の主要な一員として存在していました。加賀の大名として他の大名と外交しながら生き残りを果たしていたのです。そして驚くべきことに本書では顕如のことはあまり語られません。顕如個人というよりも本願寺教団が幕府や他の戦国武将とどのように関わっていたのかの解明に紙面の大部分が当てられます。

さらに一見政治に全振りしているかのようにも思える本願寺教団も、実は門徒の信仰を守るために政治化せざるをえなかったという事情も見えてきます。以前当ブログで紹介した藤木久志著『土一揆と城の戦国を行く』や清水克行著『室町は今日もハードボイルド』などで語られるように、この時代は自分たちの身を守るために誰もが武装し戦わなければならないほど厳しい時代でした。門徒自身も例外ではありません。強い者の庇護下にいなければ信仰も全て弾圧されてしまいます。誰の庇護下に入るべきかというのは切実な問題だったのでした。

本書の著者神田千里氏の著書はこれまで当ブログでも神田千里『一向一揆と石山合戦』『宗教で読む戦国時代』をご紹介してきました。神田氏はこの複雑な室町、戦国期の時代背景、政治状況をふまえた上で宗教を語ってくれる貴重な先生です。本書『顕如 仏法再興の志を励まれ候べく候』もまさにそうした観点からの著書になります。

本願寺教団側から語られる歴史とは違った視点で学べる本書は実に刺激的な一冊でした。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「神田千里『顕如』概要と感想~本願寺教団はなぜ戦国時代に信長と戦えるほど巨大化したのか。その歴史的背景を知れるおすすめ伝記」でした。

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顕如 仏法再興の志を励まれ候べく候 (ミネルヴァ日本評伝選)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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