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今谷明『戦国期の室町幕府』概要と感想~臨済宗五山派と幕府の関係性について知るのにおすすめ!実務官僚としての禅僧の存在とは
今回ご紹介するのは2006年に講談社より発行された今谷明著『戦国期の室町幕府』です。
早速この本について見ていきましょう。
土一揆の勃発、足軽・町衆の台頭――
戦乱の京都、民衆たちは歴史の表舞台に登場した
民衆が歴史の表舞台に登場し、日本文化の伝統が形成された戦国時代の京都。その実像とはどのようなものか。本書は山門と五山の争い、幕府財政、警察制度、徳政一揆等を素材に政治経済都市としての中世末期の京都を概観、応仁の乱後の自治都市成立までを精緻な論証に基づいて活写する。中世史研究に一石を投じ高い評価を得た幻の名著、待望の文庫化
Amazon商品紹介ページより
本書『戦国期の室町幕府』はとてつもない名著です。私もこの本には参りました。「え!?」という事実が次から次に出てきます。完全に常識が覆されました。
本書で最も刺激を受けたのが室町幕府と臨済宗(特に五山派)の関係性です。
室町幕府は五山たる臨済宗寺院を積極的に支援していました。そしてその支援をもとに臨済宗は一気に拡大するのでありますが、話はそれで終わりません。
なんと、当時の五山の僧侶は官僚としての役目を果たしており、幕府の経済や外交、事務を担う重要な任務を帯びていたのでありました。五山の僧侶たちは中国の先進的な文化や教養を身につけており、実務的な能力が抜群だったためその力を買われて新興勢力として急速に幕府と関係を深めていくことになります。
そして新興勢力が勃興するということは旧来の勢力が没落していくということです。
これまでの仏教界で支配的な勢力と言えば比叡山延暦寺や南都興福寺がその代表格です。これら南都北嶺の大寺院は軒並みこの室町期に大打撃を受けています。平安時代から続いてきた旧体制にとどめを刺したのが室町幕府と五山派の勃興なのでありました。
私も読んで驚きました。なんとその結末として1435年に比叡山延暦寺が完全に焼失していたのです。しかもこれが室町幕府への抗議を込めた焼身自殺だったのです。政治的に追い込まれた比叡山僧侶たちが自ら延暦寺に火をかけ、お堂だけでなく貴重な仏像や文献、あらゆるものを道連れにしたのでありました。
そうです。比叡山は織田信長が焼き討ちにする135年も前にすでに灰燼に帰していたのです。つまり信長の比叡山焼き討ちのハードルはこの時点で一気に下がっていたのです。これがもし創建以来の建物や宝物が残っていたのだとしたらさすがの信長も躊躇したかもしれません。しかしこの時点ですでに焼き討ちされていたとなると話は別です。もちろん、それでも比叡山を焼き討ちにするのはとてつもないことではありますが、私は本書を読みそれこそ仰天することになりました。
他にも本書では驚くことがどんどん出てきます。蓮如を筆頭とした本願寺教団が一気に勢力を増すのもこの時代のことです。本書では直接的には蓮如のことは語られませんが、このように従来の旧勢力が軒並み没落していく中で新興勢力が生まれてくるという混沌とした時代がこの室町戦国期なのでありました。
本願寺教団の急成長の背景を考える上でも本書はあまりに刺激的な一冊でした。ここではこれ以上どう語っていいか私も困惑しています。それほどこの本は衝撃的です。私達の常識を破壊する凄まじい一冊です。ぜひぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「今谷明『戦国期の室町幕府』概要と感想~臨済宗五山派と幕府の関係性について知るのにおすすめ!実務官僚としての禅僧の存在とは」でした。
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戦国期の室町幕府 (講談社学術文庫 1766)
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