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来村多加史『高松塚とキトラ 古墳壁画の謎』あらすじと感想~有名な四神壁画の驚くべき事実とは!
今回ご紹介するのは2008年に講談社より発行された来村多加史著『高松塚とキトラ 古墳壁画の謎』です。
早速この本について見ていきましょう。
壁画にかくされた知られざる古代の宇宙観 高松塚古墳とキトラ古墳。壁画の発見以来、被葬者は誰か、保存法をどうするか注目されてきたが、本書は壁画にこめられた意味を明らかにする。画期的な分析。
Amazon商品ページより
高松塚古墳壁画 西壁女子群像 Wikipediaより
石室レプリカ(キトラ古墳壁画体験館 四神の館) Wikipediaより
高松塚古墳、キトラ古墳は共に700年頃に作られた古墳です。所在地も共に明日香村近辺です。
私がこの古墳に関心を持ったのはほんの偶然でした。前回の記事「松木武彦『考古学から学ぶ古墳入門』概要と感想~古墳とは何かをわかりやすく学べるおすすめ入門書」でもお話ししましたように、私はこの度急遽飛鳥寺を訪問することになりました。そしてその周辺の地図を見ていると、なんと歴史の教科書に出ていた高松塚古墳がすぐ近くにあるではないですか!
ということでせっかくならば足を延ばしてみようと思いこの古墳について調べてみたのがそのきっかけです。そして手に取ったのが本書『高松塚とキトラ 古墳壁画の謎』という本でした。
この本を読んでまず驚いたのがそもそもこれらの古墳が造られたのが700年頃ということでした。700年といえば聖徳太子登場からほとんど100年も経った時代です。奈良の平城京遷都までもあとわずかです。そんな時代にまだこうした古墳が造られていたということに今更ながら驚いたのです。これは僧侶である私だからこその盲点かもしれません。仏教が伝来して時が経ち、数多くの寺院が建造されていたことに目が向かいがちでしたが、古墳はまだまだ作られていたのです。しかもその最高峰の芸術がまさにこの高松塚古墳とキトラ古墳に施されていたのでした。
古墳と言えば古代的なイメージがどうしても強くなってしまいますが、700年当時でもこうして古墳と日本人は共存していた・・・。これは私自身目が開かれるようでした。
また、本書では高松塚古墳とキトラ古墳の壁画の画家が同一人物であるということが論証されていきますが、この謎の画家がまたまた興味深い!なんと、この人物は唐に留学し現地の絵を学び、その技術を駆使してこれらの壁画を描いていたというのです。これも驚きでした。たしかに600年代には遣隋使、遣唐使が何度も派遣されています。その遣唐使に随行した画家がこの傑作絵画を生み出したのではないかという説を本書ではじっくり見ていくことになります。この画家への著者の熱意が伝わってくる熱い文章です。ものすごく引き込まれました。
さらに壁画本体に関する考察も実に刺激的です。壁の四方にはそれぞれ青龍、白虎、朱雀、玄武が描かれているのですが、この四神が石室に描かれたことの意味や、画家の工夫、制作エピソードなども詳しく語られます。当時の死生観も本書では語られますのでこれも非常に興味深かったです。
本書は高松塚古墳とキトラ古墳の歴史やその特徴を概観した上でさらに深いところまで連れて行ってくれる名著です。高松塚古墳とキトラ古墳はそもそも私の中で別個の存在だったのですが、ここまでリンクしている存在だったとは驚きでした。皆さんもこの本を読めばきっと驚くと思います。著者の熱い思いも感じられるおすすめ作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「来村多加史『高松塚とキトラ 古墳壁画の謎』あらすじと感想~有名な四神壁画の驚くべき事実とは!」でした。
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高松塚とキトラ 古墳壁画の謎
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それにしても本書には驚きました。
とにかく面白いのです。
しかも網干先生その人についての事実が私にとっては刺激的なことばかりでした。この本を読んだ時間は至福と言っても過言ではありません。
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