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高田貫太『海の向こうから見た倭国』あらすじと感想~古代日本と朝鮮、中国の相互関係を学べる刺激的な作品

海の向こうから見た倭国
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高田貫太『海の向こうから見た倭国』あらすじと感想~古代日本と朝鮮、中国の相互関係を学べる刺激的な作品

今回ご紹介するのは2017年に講談社より発行された高田貫太著『海の向こうから見た倭国』です。

早速この本について見ていきましょう。

倭も百済、新羅、加耶などの朝鮮半島の国々の歴史も従来は、すでに国が存在することを前提として語られてきました。しかし近年の日韓両国の考古学の進展により、事実はそれよりも複雑だったことが明らかになってきました。交易の主役は「中央」ではなく様々な地方の勢力だったのです。倭一国だけを見ていては見えないことが、朝鮮半島という外部の目から見えてくる。歴史研究の醍醐味を味わうことのできる1冊です。

Amazon商品紹介ページより

前回の記事で紹介した『倭の五王』に引き続き、本書『海の向こうから見た倭国』も東アジアと日本の関係を知れるおすすめ参考書です。

この本の特徴は書名にもありますように、朝鮮の側から見た倭国という視点から日本の歴史を見ていく点にあります。

本書冒頭ではそんな朝鮮と倭国の関係について次のように述べられています。少し長くなりますが重要な内容ですのでじっくり読んでいきます。

倭は、朝鮮半島から多様な文化をさかんに受け入れ、取捨選択し、変容させ、みずからの文化として定着をはかっていた。

たとえば、須恵器とよばれる硬いやきものがそうである。五世紀に列島各地の人びとは朝鮮半島から技術を受け入れて、さかんに生産するようになった。また、鉄の道具をつくったり鉄自体を生産したりする技術もそうである。倭では古くから鉄の原料を朝鮮半島からの輸入に頼っていて、そこから道具を作る技術も限られた有力者によって占有されていた。けれども、五世紀には半島から渡ってきた人びと(渡来人)によって、鉄の道具をつくる技術が各地へと広まった。そして遅くとも六世紀後半には、鉄鉱石から鉄をうみだすこと自体が可能となった。

さらに、金、銀、銅をもちいて、アクセサリーや馬具などさまざまな品々をつくりだす金工の技術も、朝鮮半島からもたらされた。ほかにも、馬を飼育するノウハウ、灌漑技術、ひいては蒸し器などの炊事道具やあらたな暖・厨房施設(カマド)など、じつにさまざまな情報や技術、道具がもたらされた。

それによって古代、中世へと続く人びとの生活様式の大きな変化が、古墳時代に起きた。その中心となった五世紀を「技術革新の世紀」とよぶこともある。

したがって、古墳時代の首長たちは、みずからにしたがう人びとに対して、安定して朝鮮半島の文化を取り入れる機会を提供する必要があった。そして、自分がそれに値する人物だということを、半島とのつながりをしめすさまざまなアクセサリー、武器、馬具などを見せびらかすことによって、アピールしていた。だから、首長が葬られた大きな古墳の副葬品に、朝鮮半島からもちこまれたさまざまな品々がおさめられることとなった。

このように、倭にとって朝鮮半島とのつながりは、鉄などの必需物資を入手した利便性の高い新しい生活様式を取り入れていく上で、決定的に重要だった。すなわち当時の倭と朝鮮半島の関係を研究することは、単に過去において海外との交流がどうだったのかを探るということにとどまらない。古墳時代の倭の社会自体を考えるうえでも、避けては通れないテーマなのである。

その倭と朝鮮半島の関係史(日朝関係史)を新しく、そしてできるだけわかりやすく描いていくことが、本書の目的だ。

講談社、高田貫太『海の向こうから見た倭国』P12-13

古代日本では朝鮮から様々な技術が伝わっていたことはよく知られていますが、5世紀が「技術革新の世紀」とまで呼ばれていたのには驚きました。

そして本書を読めばこうした朝鮮との交流が5世紀どころか弥生時代の後半頃から断続的に続いていたことも知ることになります。私も驚いたのですが3世紀にはすでにかなり緊密に海村同士の連携がとられていたようです。遣隋使が600年頃に行われ、その後遣唐使船が何度も難破している歴史を考えるとこれは意外でした。本書を読んでいると驚くことがどんどん出てきます。

また、著者が引用の最後に「その倭と朝鮮半島の関係史(日朝関係史)を新しく、そしてできるだけわかりやすく描いていくことが、本書の目的だ」と述べているように、この本はとにかく読みやすいです。前回の記事で紹介した『倭の五王』もそうでしたが、ストーリーが物語調で歴史の流れがすっきり頭に入ってきます。専門用語の羅列ではなく、一般読者にもわかりやすく楽しめるように配慮がなされているのが本当にありがたいです。専門的な本が専門用語だらけになってしまうのは仕方ないですが、こうした難しい内容を一般読者に伝わるように書かれた「新書」という文化はやはり素晴らしいなと思います。

本書は古代日本と朝鮮、中国の相互関係を学べる非常に刺激的な作品となっています。

当時の中国事情も知れる名著、川勝義雄『魏晋南北朝』と合わせて読めばさらに深く読み込むことができます。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「高田貫太『海の向こうから見た倭国』あらすじと感想~古代日本と朝鮮、中国の相互関係を学べる刺激的な作品」でした。

Amazon商品紹介ページより

海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)

海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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