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ジョセフ・クーデルカ『プラハ侵攻1968』あらすじと感想~傑作写真集!プラハ市民はいかに戦車と向き合ったのか!

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ジョセフ・クーデルカ『プラハ侵攻1968』概要と感想~傑作写真集!プラハ市民はいかに戦車と向き合ったのか!

燃えるソ連の戦車と国旗を掲げるチェコスロバキアの人々 Wikipediaより

今回ご紹介するのは2011年に平凡社より発行されたジョセフ・クーデルカ著、阿部賢一訳の『プラハ侵攻1968』です。

早速この本について見ていきましょう。

プラハ市民はいかに戦車と向き合ったのか?
20世紀の歴史的実験であった〈プラハの春〉の圧殺と、言葉を武器とした抵抗のすべてをとらえた画期的ドキュメント。

ロバート・キャパ賞受賞のクーデルカの傑作が、初めて明らかになる!

Amazon商品紹介ページより

1968年8月の侵攻については、チェコスロヴァキアや国外の数多くの写真家が記録を残している。

だが、これほどの強度とこれほどの規模でこの出来事を捉えた者は他にはいない。

重要な出来事があったすべての場所で、コウデルカは出来事の中心にいた。

単なる観察者ではなく、出来事に直接参加していたのだった。

およそ40年を経て、ヨゼフ・コウデルカは自身のアーカイヴを見返し、本書のために249枚の写真を選んでくれた。その大部分は、今回初めて公表されたものである。

本書は、チェコスロヴァキアの生活にその後長年にわたり悲劇的な影響を与えることとなった1968年8月の歴史的出来事を記録したものであるが、同時に、コウデルカの写真家としてのたぐいまれな才能を示している。

平凡社、ジョセフ・クーデルカ著、阿部賢一訳『プラハ侵攻1968』帯

この本は写真家ジョセフ・クーデルカによるソ連のプラハ侵攻の様子を収めた写真集です。

美しきプラハの街に大量の戦車と完全武装の軍人たちが押し寄せ、武力で制圧。

これにより、抑圧からの自由を求めたプラハの春は完全に終焉を迎えることになってしまいました。

その緊迫したプラハ情勢をリアルに体感できるのがこの作品です。

上の解説にもありましたように、この本では249枚の写真が掲載されています。

そのどれもが衝撃的な写真です。

ページをめくる度に私はぞわっとした寒気が全身に走り、鳥肌が立ちました。これは誇張ではありません。それだけここに掲載されている写真は衝撃的です。

特に、戦車と向かい合うプラハ市民の写真は言葉を失ってしまうほどです。ただただ呆然とするしかありません。

この事件は1968年に起きたものです。今から50年ちょっと前の話です。たった50年前のプラハでこんなことが起きていたのかと。あの美しいプラハのど真ん中を戦車が行進し、武装した軍人がプラハ市民に銃口を向けている・・・そしてそれに対し暴力ではなく、言葉、非暴力によって抵抗しようとするプラハ市民。その姿にとにかく心が震えます・・・

この作品では写真だけでなく、プラハの春とは何だったのか、なぜソ連軍の侵攻が起こったのか、そしてプラハ市民がいかに戦車に立ち向かったのかという解説も聞くことができます。この解説も頗るわかりやすく、不条理な暴力に対してプラハ市民がいかに勇敢に「言葉」や「人間性」で立ち向かったかを知ることができます。

どれも皆さんに紹介したいくらい素晴らしい解説だったのですが。その中で印象に残った箇所のひとつをここに紹介したいと思います。

以下はなぜプラハの春が起こったのかという導入の一節です。

主たる危機は慢性的な国家経済の不全であり、それは市民一人一人の生活に直接関与する問題であった。この点において、政府は明らかに失策を重ねていた。1948年2月以降、中央の計画が市場経済に完全に取って代わったが、商業ネットワーク、とりわけ基本的な食品の供給は慢性的な不足に直面していた。商品は商店で購入するものではなく、探し回らなければ入手できなかった。

平凡社、ジョセフ・クーデルカ著、阿部賢一訳『プラハ侵攻1968』P12

戦後ナチスから解放されたチェコスロバキアはソ連に支配されることになり、経済システムはソ連式のものになりました。

しかしソ連式の経済は全くうまくいかず、日常品ですら不足する有り様となってしまいました。戦前までチェコはヨーロッパ有数の工業国で比較的豊かな経済を誇っていましたがそれも跡形もなくなってしまったのです。

生産性は地に落ち、賄賂を渡さなければ何もできない現状。

経済的についに立ち行かなくなり、政府は外貨獲得のため海外旅行を解禁します。これが西側諸国と自分達の比較をさせることになり、事態は動いていきます。引き続き読んでいきましょう。

この点において重要な役割を担ったのが、西欧、とりわけオーストリア、西ドイツとの対比である。1960年代に観光業は発展を遂げたが、チェコスロヴァキアもその例にもれず、国家に外貨をもたらすため、共産主義体制も許容していた。

毎年、数十万人のチェコ人やスロヴァキア人が鉄のカーテンの先まで旅行に出かけていた。その大半の人々は現地で衝撃を受けることとなる。

映画監督のパヴェル・ユラーチェク(1935-1989)は、1964年、初めて西ドイツを訪問した時の経験を示唆深く述べている。

「1カ月前、私は火星に行ってきたが、そのせいで、死を迎えるその日まで、自分が不幸せだと感じるだろう……。そう、私は西ドイツを訪れた。へプからはほんのわずかな距離、数分だ。列車はシルンディンクに停車する。だがそこまでの数キロは、無限の距離を感じさせるもので、20年、30年離れていて、もはや火星やサイエンス・フィクションの領域だった。

着いたその夜に、私は熱を出した。同じ地球にいると信じることができず、とてつもなく泣きたくなったのだ。自分が石器時代から来たかのように思えたのだった。その後私は憎悪を抱き始めた。私にできる唯一のことだったからだ。それは、自分の運命に対するもの、自分の罪ではないのに、細々と暮らしている今の生活に対する苦々しい憎悪だった。自分が生まれたこの国では、忌まわしい何かが、とてつもなく不条理な何かが、ほかに例を見ない何かが起きているのだと理解した。荒廃の規模の大きさ、崇高なる崩壊、退廃のパトスとはどういうものかを理解した。この国は徐々に、しかしながら確実に消失しつつあり、この国の歴史は反対の方向へと向かっていると理解した。

西ドイツで私が驚いたのはいずれも当然のことだったという点に、私は驚愕した。丁寧さ、親切さ、正確に運行する列車、清潔さ、機能する自動販売機、穴のない高速道路、漆喰が剥がれていない住居、水がきちんと流れる流し台、嘘をつかない新聞、そして自分がドイツ人、アメリカ人、フランス人と同じ人間であるということ、けれども彼らと同じような普通の生活を営むことがないということに私は鷺愕した。

マンハイム、ハイデルべルク、オルテンブルク、ブレーメン、クックスハーフェン、ニュルンべルクから、自分が住んでいる世界を眺めてみた。その世界は、醜い、容赦のないカリカチュアだった」。
※一部改行しました

平凡社、ジョセフ・クーデルカ著、阿部賢一訳『プラハ侵攻1968』P12

この箇所を読めば、当時のプラハが陥っていた状況が一発でわかると思います。

「自分が生まれたこの国では、忌まわしい何かが、とてつもなく不条理な何かが、ほかに例を見ない何かが起きているのだと理解した」という言葉はまさしく、この国が生んだ偉大な作家カフカを連想させます。

想像しえない不条理が現実として起こっている。プラハの人々はそうした事態に苦しんでいたのです。

そしてそれを打開するために起こったのがプラハの春だったのです。

ソ連の抑圧によりプラハは経済も文化も、豊かな人間性すらも失いつつあった。だからこそ人々は立ち上がったのです。

しかし、それはソ連からすればあってはならないこと。当然のように潰しにかかってきます。

それがこの作品で収められた写真の数々に収められています。

戦車が突如自分たちの街に押し掛けてくる。

そして街は破壊され、犠牲者が続出する。

そんな中でプラハの人たちはどのように動いたのか。

この本は驚くべき事実を私たちに教えてくれます。私は非暴力で抵抗を続けたプラハの人々の勇気、文化、人間性に心から敬意を抱きました。読んでいて泣きそうになるほど、私は心打たれました。

ここに掲載されている写真は驚くべきパワーを持っています。その衝撃をぜひ皆さんにも感じて頂けたらと思います。

なかなか入手しにくい本ではありますが、中古本としてや、大きな図書館などでは置いているかもしれません。もし見つけたらぜひ手に取って頂きたいと思います。これは絶対におすすめしたい1冊です。

以上、「ジョセフ・クーデルカ『プラハ侵攻1968』傑作写真集!プラハ市民はいかに戦車と向き合ったのか!」でした。

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ジョセフ・クーデルカ プラハ侵攻 1968

ジョセフ・クーデルカ プラハ侵攻 1968

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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