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走れメロス三島由紀夫と日本文学

太宰治『走れメロス』あらすじと感想~教科書でもお馴染みの名作を大人になってから読んでみると・・・!

『走れメロス』はたしかに明るい作品です。しかし、後の太宰の人生を考えるとどこかその明るさに悲しさを感じてしまう私がいます。『走れメロス』の理想的な世界観があまりに美しいが故に、太宰の破滅がそこに予感されるような気がするのです。

これは大人になってから人生の色々なことを知っていくにつれてもっと感じていくようなものなのかもしれません。人生の酸いも甘いも知った上でこの明るい名作が投げかけてくるものを感じていく。これは実に贅沢な読書体験です。大人だからこそ楽しめる『走れメロス』なのかもしれません。

走れメロス三島由紀夫と日本文学

太宰治『駆込み訴え』あらすじと感想~ユダの裏切りを太宰流に翻案!人間の弱さ、ずるさ、いじらしさの極致!

この物語は「申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い」というまさに「駆込み訴え」から始まります。誰が何を訴えのか。それこそまさにユダがイエス・キリストを売ったというあの有名な聖書の出来事なのです。

ユダの裏切りはレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画で有名な最後の晩餐でもモチーフとなっています。この最後の晩餐でイエスは「12使徒の中の一人がが私を裏切る」と予言し、一同大慌てという図がこの絵で描かれています。

その裏切り者こそユダであり、そのユダがどのように裏切りを働いたかを太宰流に描いたのが本作『駆込み訴え』になります。

「なぜこんなものが書けるのだ!一体どうなっているのだ太宰は!」と思わざるをえないほどよどみのない真っすぐなユダの告発です。ものすごい作品です。

走れメロス三島由紀夫と日本文学

太宰治『富嶽百景』あらすじと感想~「富士には、月見草がよく似合う」の名言で有名な名作短編

本作では破滅から立ち上がらんとする一人の男と美しい富士山が見事に描かれています。

私はこの本を手に取るまでこの作品を知りませんでしたが、一番最初の太宰作品としてとても良い出会いだったなと思います。太宰と三島、両者の文体の違いを鮮明に感じることができました。

ページ数も30頁ほどと、とても読みやすい分量です。

太宰入門としてもこの作品は適役と言えるかもしれません。

ぜひぜひおすすめしたい好短編です。

美しい星三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『美しい星』あらすじと感想~あの三島がSF小説を書いていた!カラマーゾフの兄弟とのつながりも!

あの三島由紀夫が本格SF小説を書いていた!

しかもこの作品はものすごく読みやすいです。作者名が伏せられていたら三島由紀夫だとわからないくらいの読みやすさです。さらに、ものすごく没入感が強く、気づけば小説の世界にすっかり入り込んでしまいます。大杉家の面々が宇宙人であること、そしてそれとは別の宇宙人の存在も物語途中から現れるのですが、どこからどこまでがリアルかSFかわからなくなるほど絶妙な匙加減です。私達は知らぬ間に計算に計算を重ねた三島文学の術中にどっぷりはまることになります。これは面白い。シンプルに面白い!

いやあ、見事な作品でした。

南方熊楠僧侶の日記

嶋本隆光『南方熊楠と猫とイスラーム』~従来の熊楠像は本当に正しかったのか?偉人研究のあり方を問う刺激的な一冊!

本作『南方熊楠と猫とイスラーム』は従来の南方熊楠に関する参考書とは一線を画す作品となっています。

南方熊楠といえば「天才的な資質をもった博物学者、民俗学者」として知られており、粘菌や植物の研究でも有名です。

南方熊楠は超人的な資料収集や研究範囲の広さによって後の研究者からも尊敬を集めるようになります。そしてその研究者たちによって語られた南方熊楠はまさに時代を先取りした天才、偉人として讃美されることになりました。

ただ、この南方熊楠という人物ははたしてその通りの偉人であったのか。後の研究者たちの讃美に満ちた南方熊楠像は本当に正しいものだったのかということを本書では丁寧に見ていくことになります。

今話題の清水俊史著『ブッダという男』の南方熊楠版ともいえる刺激的な作品です!

アポロの杯三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『アポロの杯』あらすじと感想~初の世界一周旅行とギリシャ体験を綴った旅行記!三島の芸術観を知るのにおすすめ!

三島由紀夫は朝日新聞の特別通信員という形で1951年末から世界一周の旅に出かけました。この旅の旅行記が『アポロの杯』になります。

三島はアテネやデルフォイの遺跡や芸術を堪能し、その思いを旅行記にしたためます。彼はこの世界一周旅行で様々な地を巡りましたが、この地に対する感動は明らかに突出しています。

そして三島がギリシャの芸術についてどう思うのか、そして自身の文学観、人生観にどのような影響を与えたのかが率直に書かれていますのでこれは非常に興味深いです。

『アポロの杯』には三島の原体験とも言えるギリシャ・ローマ体験がこれでもかと詰まっています。彼の文学や生き方を知る上でも非常に参考になる作品です。

潮騒三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『潮騒』あらすじと感想~古代ギリシャをモチーフに書かれた恋愛小説。三島らしからぬディズニー的物語がここに

『潮騒』は「平和で静穏な小説であり、この作家としては例外的に、犯罪も血の匂いも閉め出された世界なのである」と解説されるほど三島らしからぬ異質な作品です。

舞台は伊勢の海に浮かぶ歌島という孤島。本土から隔たれたこの美しい島で、二人の若者の清らかな恋が語られます。

三島由紀夫といえば『金閣寺』や『仮面の告白』のえげつない内面描写や『憂国』の血のしたたりというイメージがあります。しかし、彼は『潮騒』のような純粋無垢なディズニー的な作品も書けてしまうのです。

「あの三島由紀夫がディズニー的な作品を書いていた」

私にとってはこれはかなりの衝撃でした。

三島由紀夫三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫、芥正彦他『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』~あの伝説の討論は何だったのか。学生達の思想、関係性も知れるおすすめ作品!

結局、あの東大全共闘は何だったのか・・・安田講堂に立てこもり火炎瓶を投げつけた学生達や内ゲバを繰り返したセクトたちと何が違うのか・・・。

私にはこれがどうしてもわからなかったのです。三島由紀夫と討論した彼らは一体何者だったのか。彼らも内ゲバや暴力をしていたのだろうか・・・。

そんな疑問を抱えていた私にとって本書はあまりにありがたい作品となりました。

いや~ものすごい本です。計15時間にも及ぶ濃密な討論がこの本で文字化されています。東大全共闘とは何だったのか、三島由紀夫との対談は何だったのかということを知るのにこの本は最高の資料になります。この時代の雰囲気を感じるためにもぜひぜひこの本はおすすめしたいです。

仮面の告白三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『仮面の告白』あらすじと感想~三島の自伝的小説。幸福を求めあがいても絶対に得られないという絶望がここに…

今作『仮面の告白』は三島由紀夫の初の長編となった作品です。しかもそうした「始まりの作品」でありながらこの小説はかなりどぎついです。後の三島を予感させる内面の苦悩、葛藤、嵐がすでにここに描かれています。

本作の主人公は同性愛的傾向を持ち、さらには若い男の流す血に性的興奮を持ってしまうという、特異な少年です。ですが、彼はそのことに煩悶し、世間一般の幸福を望んでもいました。

しかし、やはり彼にはそのような平穏は許されていなかった・・・

この作品は三島由紀夫の自伝的な小説と呼ばれています。三島自身は妻を持ち子もいますので完全には小説そのままではありませんが、彼の抱えていた悩みやその生育過程が今作に大きな影響を与えたとされています。

不道徳教育講座三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『不道徳教育講座』~逆説とユーモア溢れる名エッセイ集!三島節の真骨頂を体感!

本書に収録されているエッセイには三島由紀夫のユーモアが溢れています。

『金閣寺』や『憂国』を読んだ後にこのエッセイを読んだ私ですが、三島由紀夫ってこんなに面白い人なんだ!と新鮮な驚きを感じながらの読書となりました。

また、本書の後半には三島由紀夫の筋肉論が掲載されています。

三島は30代に入ってから肉体改造に取り組み、ボディ・ビルに勤しんでいました。その三島の筋肉論を聴けるのも本書の醍醐味でもあります。この三島の筋肉の美学には痺れます!近年の筋肉ブームを考えると、この三島の筋肉論が一種のムーブメントに発展してもおかしくありません。