中村元選集第23巻『仏教美術に生きる理想』~仏教学の泰斗によるインド美術の名解説を聞けるおすすめ本!

中村元選集23 Buddhism in India

中村元選集第23巻『仏教美術に生きる理想』概要と感想~仏教学の泰斗によるインド美術の名解説を聞けるおすすめ本!

今回ご紹介するのは1995年に春秋社より発行された中村元著『中村元選集〔決定版〕第23巻 仏教美術に生きる理想』です。

Let's take a quick look at the book.

仏教は長い歴史のうちに独自の美術をはぐくんだ。仏塔崇拝から仏像の成立,そして仏像崇拝へといたる過程がその中心である。本巻は美術の変遷の背後に仏教の理想を探る。

ガンダーラ・アジャンター・敦煌などの美術作品に表現された仏教の理想を、思想史研究の視点から解明する。カラー口絵ほか写真多数(丸山勇撮影)。

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この本は仏教学者中村元先生による仏教美術の解説書になります。

中村元先生といえば仏教思想においても当時の時代背景と絡めたわかりやすい解説で有名ですが、今作のテーマである仏教美術においてもその名解説は健在です。

サールナートの仏像 Wikipedia.

ガンダーラ仏像やマトゥラー仏像など最初期の仏像や、5世紀頃のサールナートの仏像などの比較も行われ、それぞれの特徴も非常にわかりやすいです。

サーンチーのストゥーパ Wikipedia.

仏教芸術の発展に極めて大きな影響をもたらしたストゥーパについての解説も素晴らしいです。

覆鉢ふくばち(あるいは半球形に近いかたち)というものは、インド仏教独自のものであると思われる。〔ジャイナ教のストゥーパも似たような形であって、遠くから見ると仏教のそれと区別がつかなかったといわれているが、完全な形のものが残っていないので、今は論題外とする。〕西洋のピラミッド、オべリスクなどの建造物が尖っていて、尖鋭という印象を与えるのに対して、ストゥーパは円満で落ち着いていて、安らいでいるという印象を与える。(中略)

The gentle hemispherical shape of the earthen bun evokes feelings of peace and tranquility in the viewer. It easily evokes the ideal of harmony. There is a sense of stability. It does not arouse anger or a desire to fight. It calms the mind in tranquility and serenity. Buddhist art is by no means unrelated to the Buddhist ideal.

春秋社、中村元『中村元選集〔決定版〕第23巻 仏教美術に生きる理想』P53-54

西洋のピラミッドやオベリスクと比較して解説されると非常にイメージしやすいですよね。インド的な特徴とは何かをわかりやすく解説してくれる本書はとても貴重な参考書です。

このストゥーパについてはこの後さらに興味深いことも指摘されていました。

The stupa was probably the largest and most important of all the structures of the Mauryan period. From a productive and economic point of view, they are of no use. While the great ruins of Kuchma were built from a worldly, utilitarian, or pleasure-oriented perspective, those of King Ashoka's time were of spiritual and religious significance. Here we find a characteristic of Indian civilization.

Shunju-sha, Nakamura Gen, Nakamura Gen Selected Works [Definitive Edition] Vol. 23: Ideals Living in Buddhist Art, p. 94-95

アショーカ王時代は紀元前268~232年頃とされています。この頃ローマ帝国はまだまだ地中海の覇権を得てはいませんでした。その勢力が最も強くなるのは紀元1世紀から2世紀にかけての頃です。

そして上の中村元先生の解説を読み、私はハッとしました。

と言いますのも、私は昨年2022年に古代ローマの遺跡を巡りました。特にその中でもローマ郊外のAqueduct on Appian Wayを訪れた時のことは忘れられません。

Here's the guide.Both the Greeks and the Egyptians built huge structures. But in the Roman civilization, everything is practical. The Colosseum, roads, aqueducts, all of them are directly related to people's lives. The Greek temples and pyramids are large, but who are they for? But who are they for? What are they good for? Rome is different. The great thing about Rome is that civilization is combined with practicality."と教えてもらったことが強烈に印象に残っています。

その時私は「そうか!古代ローマの偉大さは徹底した実用性の探究にあったのか!」と感嘆したものでした。

ですがここで今中村元先生の言葉を聞いて、純粋に精神的、宗教的に作られたストゥーパなるものの奥深さにも改めて気付くことになったのでした。実用性など全く無視し、ただひたすら精神的・宗教的なものを追い求めたインド人。これはこれで偉大なことなのだと改めて感じ入ったのでありました。西洋と比べてみることでインドの特質が浮かび上がる名解説だと思います。

Ajanta GrottoesWikipedia.

他にも、インドの誇る仏教遺跡アジャンタ石窟の解説がこの本ではかなり詳しくなされます。現地に行かれた中村元先生ならではのコメントもあり非常に興味深いです。

インド仏教の歴史を仏教美術という側面から見ていけるこの本はとにかく刺激的で面白いです。これは名著中の名著です。ぜひぜひおすすめしたい逸品です。

以上、「中村元選集第23巻『仏教美術に生きる理想』~仏教学の泰斗によるインド美術の名解説を聞けるおすすめ本!」でした。

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