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梅原季哉『戦火のサラエボ100年史「民族浄化」もう一つの真実』概要と感想~ボスニア紛争の流れを知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2015年に朝日新聞出版より発行された梅原季哉『戦火のサラエボ100年史「民族浄化」もう一つの真実』 です。

Let's take a quick look at the book.

1914年6月28日、オーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公がサラエボ外遊中、セルビア人青年に暗殺された。第一次世界大戦の引金となったこのサラエボ事件をめぐり、100年後の今なお、暗殺者は「祖国解放の英雄」か「テロリスト」か、歴史観の対立が続く。

サラエボは、元々、ボシュニャク(モスレム)人、セルビア人、クロアチア人の主要3民族が共存する多様性に富む土地だったが、民族対立をあおり利用する政治家たちによって、92~95年、「ボスニア内戦」を余儀なくされた。

当時、欧米メディアがさかんに使った「民族浄化」の言葉が広まり、99年コソボ紛争ではNATOのユーゴ空爆があった。しかしあれは本当に民族紛争だったのか?民族主義と歴史認識の相克を、サラエボで100年続く家族への聞き取りと証言でたどる本格ノンフィクション。


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この本は1992年から始まったボスニア紛争の流れを知るのにおすすめな作品です。

ボスニア紛争はあまりに複雑な背景の下起こった悲劇でした。

その複雑な背景を知るにはボスニアの歴史、ユーゴスラビアの歴史を知ることが不可欠です。

この本はそんなボスニア史を含めて、大きな視点で紛争の背景を見ていくのが特徴です。

そしてこの本のもう一つの特徴が上の解説で「 サラエボで100年続く家族への聞き取りと証言でたどる本格ノンフィクション」とありましたように、実際に紛争を経験した人の声を大切にしている点です。

そのことについて著者は次のように述べています。少し長くなりますがボスニア紛争を学ぶ上で非常に重要な問題提起ですのでじっくりと読んでいきます。

ボシュニャク(モスレム)人、セルビア人、クロアチア人といった固有名詞が登場するだけで、「日本とは無縁な異国のできごと」という印象を抱いてしまう人もいるかもしれない。確かに、複雑にからみあったこの地域の歴史は、日本から見れば地理的には遠く、日常生活に直接関わってくるような利害関係は事実上存在しない。その分だけ、多くの日本人にとっては理解しにくい面はあるだろう。

敵対する勢力を分けて考えれば「分かりやすい」構図ができあがる。だが、そうした構図の中で、顔のある個人一人ひとりのストーリーを捨て去っていくと、そこからこぼれ落ちてしまうものがあるのではないだろうか。

「ボシュニャク人」対「セルビア人」といった、民族集団同士の対立という枠組みの中だけで物事を見ていくと、「こちらは何百人が虐待を受けたんだ」「いや、我々こそ何千人が殺された」と互いに被害の数字だけを競うようなことになりかねない。そこでは、個人の名前は削げ落ちてしまう。

本書は、そうした形で単純化された、ただ「分かりやすい」だけの構図に抗するために、「顔が見える」人々の歩みとして、ボスニア・へルツェゴビナの今に至る歴史、特に首都サラエボを生きる人々の家族史を中心に記していきたい。

多くの人命が失われた旧ユーゴ紛争、ボスニア内戦の歴史から教訓をくみ取るべき点があるとすれば、多民族社会の中で起きる憎悪や、戦争・紛争で起きる非人道行為を単なる必然として受け止めるのでなく、何がそうした状況を生んだのか、止められる要素はなかったのか含めて、重層的に理解することではないだろうか。

異なる民族は殺し合うものであり、歴史を通じてずっとそうしてきた、という風にしか理解せず、「戦いとはそういうもの」と決めつけてしまえば、過去をめぐる和解は難しくなる。

それは現代を生きる日本人にとっても、決して無縁な話ではないはずだ。

朝日新聞出版、梅原季哉『戦火のサラエボ100年史「民族浄化」もう一つの真実』 P10-11

ボスニア紛争を単純に「ボシュニャク人」対「セルビア人」という構図で分けてしまうと、わかりやすくはなっても決定的に重要なものが抜け落ちてしまう・・・その「わかりやすさ」こそがボスニア紛争の理解を遠ざけてしまうと著者は述べます。

そして著者は本書についてこう続けます。

東アジアでも、ニ〇世紀前半の戦争の歴史をめぐって、なおわだかまりを解けずにいる不幸な状況が存在する。

そんな中で、「バルカンを見れば分かるように、異民族は対立を続け、殺し合ってきた」といった言説をそのまま受け入れる態度は、一見リアリズムのようにみえるかもしれないが、和解をスタートとして、互いに共生できるような、より良い未来を作り上げる可能性を放棄してしまう敗北主義にほかならないのではないか。

とはいえ、断続的にでも、十数年にわたって旧ユーゴで取材してきた私自身の経験から、この地域の複雑な歴史と地理を、「分かりやすく」伝えることの難しさは身にしみている。

ボスニアの歴史は、たくさんの糸でつむがれた織物のような複雑なものだ。遠目には一つの色にみえても、近寄ってみれば実は複雑な色から織りなされている。

この本の最大のねらいは、その歴史に絡めとられたさまざまな人々の人生模様をたどることで、日本からみれば特に複雑にみえるサラエボの歩みを解きほぐしていくことにある。ただし、読者にその複雑さについての知識を得てもらうことが主眼ではない。

繰り返すようだが、日本人からは「分かりにくい」と敬遠されがちな歴史的経緯や、民族の違いといった背景を踏まえた上で、そうした背景の向こう側にある普遍性にこそ目を向けてもらいたい。

朝日新聞出版、梅原季哉『戦火のサラエボ100年史「民族浄化」もう一つの真実』 P 11-12

『「バルカンを見れば分かるように、異民族は対立を続け、殺し合ってきた」といった言説をそのまま受け入れる態度は、一見リアリズムのようにみえるかもしれないが、和解をスタートとして、互いに共生できるような、より良い未来を作り上げる可能性を放棄してしまう敗北主義にほかならないのではないか。』

という指摘は非常に重要だと思います。一見「リアリズム」に見える言説も実は敗北主義に他ならない。確かに「これが人間の現実だ」と言ってしまえば人間を知っているかのように見えますし、それは一面では正しいのかもしれません。ですがそれですべてを片付けてしまったら未来を作り上げる可能性を放棄することになる。

ボスニア紛争を学べば学ぶほど、この紛争の複雑さに驚くことになります。「じゃあどうしたらいいのだ?」と読んでいて途方に暮れることも多々あります。目を覆いたくなる解決困難さがここにあります。そうするとどうしても上の「リアリズム」に屈してしまいそうになります。

ですがこの本では紛争を経験した方の声をたくさん聴くことになります。

生きた人間の歴史としてこのボスニア紛争はある。それは単に「仕方がなかった」で割り切ってしまえないものです。私達に語りかけてくるものがあるからこそ、「単純にものごとを考えてはいけない」と諭されるような気がします。

この本はボスニア紛争を学ぶ参考書として非常におすすめです。入門者にも読みやすく書かれていますし、もちろん、この紛争についてもっともっと深く知りたい方にもおすすめできる内容です。

以上、「梅原季哉『戦火のサラエボ100年史「民族浄化」もう一つの真実』~ボスニア紛争の流れを知るのにおすすめ!」でした。

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