ソ連

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

梶川伸一『幻想の革命 十月革命からネップへ』~飢餓で始まり、幻想で突き進んだ革命の実像

1921年、ソ連は大飢饉に見舞われていました。ですが、この飢饉は天災ではなく、人災でした。前年にレーニンが農民から徹底的に食料を収奪し、翌年に植えるための種まで持って行ってしまったため農村では大混乱が起き、未曽有の飢饉に苦しむことになったのです。

このままではソ連が崩壊するということでソ連は新経済政策(ネップ)を打ち出すことになります。このネップと飢餓の関係が本書の主要テーマとなります。

ソ連の描く素晴らしい未来とネップが結び付けられがちですが、著者の梶川氏は当時の資料を基に、ネップがそもそも飢餓と結びついたものでありとても理想的な政策とは呼べるものではないということを述べていきます。

ソ連首脳部が描いた幻想が膨大な餓死者を招いたという恐るべき事実をこの本では知ることになります。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

高本茂『忘れられた革命―1917年』~ロシア革命とは何だったのか。著者の苦悩が綴られた一冊

この本では1917年のロシア革命からその後のソビエトの独裁の流れについて解説されていきます。

この本の特徴は、かつて著者自身がロシア革命の理念に感銘を受け、マルクス思想に傾倒したものの、やがて時を経るにつれてソ連の実態がわかり、今ではそれに対して苦悩の念を抱いているという立場で書かれている点です。

最初からマルクス主義に対して批判をしていたのではなく、長い間それに傾倒していたからこそ語れる苦悩がこの本からは漂ってきます。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

S.P.メリグーノフ『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)』~レーニン時代の凄惨な弾圧システムに衝撃を受ける…

ソ連時代に一体何が起きていたのか、それを知るために私はこの本を読んだのですが、想像をはるかに超えた悲惨さでした。人間はここまで残酷に、暴力的になれるのかとおののくばかりでした。

私は2019年にアウシュヴィッツを訪れました。その時も人間の残虐さをまざまざと感じました。ですがそれに匹敵する規模の虐殺がレーニン・スターリン時代には行われていたということを改めて知ることになりました。

この本はかなり衝撃的です。読んでいて目を反らしたくなるほどのものでした。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

神野正史『世界史劇場 第一次世界大戦の衝撃』―この戦争がなければロシア革命もなかった

前回の記事に引き続き神野正史氏の著作をご紹介していきます。

というのも、ロシア革命は第一次世界大戦がなければ起こっていなかったかもしれないほどこの戦争と密接につながった出来事でありました。

『世界史劇場 ロシア革命の激震』でもそのあたりの事情は詳しく書かれているのですが、やはりこの大戦そのものの流れや世界情勢に与えた影響を知ることでよりこの革命のことを知ることができます。

単なる年号と出来事の暗記ではなく、歴史がどのように動いていったのかを知るのにも最高な入門書です。しかもとにかく面白くて一気に読めてしまう。これは本当にありがたい本です。

ロシア革命や当時のロシアが置かれていた状況を知る上でもこの本はおすすめです。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

神野正史『世界史劇場 ロシア革命の激震』~ロシア革命とは何かを知るのにおすすめの入門書!

神野氏の本はいつもながら本当にわかりやすく、そして何よりも、面白いです。点と点がつながる感覚といいますか、歴史の流れが本当にわかりやすいです。

ロシア革命を学ぶことは後の社会主義国家のことや冷戦時の世界を知る上でも非常に重要なものになります。

著者の神野氏は社会主義に対してかなり辛口な表現をしていますが、なぜ神野氏がそう述べるのかというのもこの本ではとてもわかりやすく書かれています。

この本はロシア革命を学ぶ入門書として最適です。複雑な革命の経緯がとてもわかりやすく解説されます。

帝政末期のロシアロシアの歴史・文化とドストエフスキー

アンリ・トロワイヤ『帝政末期のロシア』~ドストエフスキー亡き後のロシア社会を知るために

この本は小説仕立てで1903年のロシア帝政末期の社会を紹介していきます。

主人公は若いフランス人ジャン・ルセル。彼はふとしたきっかけでロシアに旅立つことになります。私たち読者は彼と同じ異国人の新鮮な目で当時のロシア社会を目の当たりにしていくことになります。

この本ではロシア正教を中心にした宗教事情、そして劣悪な状況で働く労働者、軍隊の内情、農民の生活など様々な事象を紹介しています。

当時のロシア社会がどのようなものであったかを知るのにとても便利な一冊となっています。しかも小説仕立てであるので読みやすいというのも嬉しい点です。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

ゴーリキーの代表作『どん底』あらすじと感想~どん底に生きる人々の魂の叫び

この作品は劇作品です。しかもこの解説に述べられているようにチェーホフと同じくわかりやすい筋もありません。そのため本としてこれを読んでもなかなかその流れを掴むのが難しいです。私も一度読んだだけではわからず、何度も読み返しました。

この作品もチェーホフと同じく、演劇として舞台で観るときっとものすごいインパクトがあるのだと思います。

この作品はかなりパワーがあります。チェーホフは静かな雰囲気の劇ですが、ゴーリキーはどん底にいる人たちの魂の叫びを表現します。言葉のパワーがものすごいです。本で読むだけでこれですから舞台で聞いたらこれはものすごいものなのではないでしょうか。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

ソ連を代表する作家ゴーリキーによるドストエフスキー批判

前回の記事「『スターリン伝』から見たゴーリキー~ソ連のプロパガンダ作家としてのゴーリキー」でお話ししましたように、ゴーリキーはソ連を代表する作家であり、スターリン政権下ではソ連のプロパガンダの宣伝にも大きな役割を果たしました。

そのゴーリキーがドストエフスキーのことをどう言うのか。

これはすなわちソ連がドストエフスキーをどう見るかということにもつながっていきます。

というわけで、佐藤清郎氏の『ゴーリキーの生涯』の中にゴーリキーがドストエフスキーに言及している箇所がありましたのでこの記事ではそちらを見ていきたいと思います。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

『スターリン伝』から見たゴーリキー~ソ連のプロパガンダ作家としてのゴーリキー

『スターリン伝』で読んだゴーリキー像は佐藤清郎氏の『ゴーリキーの生涯』とはだいぶ違った姿でした。

とは言え、ゴーリキーが幼い頃から苦労し、作家となってからも自身の考える理想を追求していたのも事実です。そしてロシア革命後にはレーニンの独裁に反対し、国も去っています。ですので、佐藤清郎氏によって書かれたゴーリキー像もそういう点では間違いではないと思います。

ただ、スターリンがあまりに狡猾だったということが言えるのではないでしょうか。ゴーリキーを自身の手元に置き、利用した。それも自身の意図に気づかれることもなく、ゴーリキーがスターリンのソ連が素晴らしいものだと思い込むように仕向けた。このスターリンの手法は恐るべきものだと思います。

レーニン・スターリン時代のソ連の歴史

佐藤清郎『ゴーリキーの生涯』~ソ連を代表する作家の波乱万丈な人生を知るのにおすすめの伝記

この本ではゴーリキーの人生が幼少期からかなり詳しく書かれていますが、公的記録が乏しい若きゴーリキーに関してはその多くの部分がゴーリキー自身によって書かれた自伝的小説が基になっています。ですのでゴーリキーをもっともっと知りたい方は『人々の中で』など、自伝的小説を読むのをおすすめします。

ゴーリキーが幼少の頃からいかにとてつもない生活を送っていたかがこの伝記では明らかになります。

彼の代表作『どん底』はまさしく彼自身が社会のどん底で生き抜いた経験があったからこそでした。そこから作家として大成するというのは驚くべきことです。この伝記を読んで本当に驚きました。並の人物ではありません。