2021年8月

イギリス・ドイツ文学と歴史・文化

ザフランスキー『E.T.A.ホフマン ある懐疑的な夢想家の生涯』~ドストエフスキーも愛したドイツ人作家のおすすめ伝記

この本のありがたいのはホフマンが生きた時代の社会や文化、時代背景を解説してくれるところにあります。

ホフマンが生きた1776年から1822年のドイツというのはゲーテやシラー、ショーペンハウアー、ヘーゲルが活躍した時代でもあります。またホフマンが生まれたケーニヒスベルクはあのカントが住んでいた街です。しかもカントは1724年生まれの1804年没ですのでまさしくカントが活躍していた街でホフマンは生れたのでした。

そういう意味でもザフランスキーがこの本で語る時代背景や文化は、他のドイツ人哲学者の背景を知る上でも非常に役に立ちます。

ホフマンその人を学びながら他の哲学者の人生と絡めて私たち読者は考えていくことができます。これは楽しい読書でした。

哲学者ショーペンハウアーに学ぶ

ザフランスキー『ショーペンハウアー 哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』~時代背景や家庭環境まで知れるおすすめ伝記

ザフランスキーの著作では当時の時代背景や思想の流れを解説してくれます。ショーペンハウアーが生きた時代や人となりを知った上で読むとまったくその本が違って見えてきます。

やはり抽象的な「思想」といえど、それは「生きた人間」から生み出されるものです。その思想だけ見ようと思ってもなかなか理解するのは難しい。思想もその時代や社会、人間と密接に関わり合って生まれてくるのだということをこの本では考えさせられます。時代背景がわかればぐっとその思想がわかりやすくなる。その素晴らしい例がこの著作であるなと思います。

難解で厳しい哲学を生み出した哲学者ショーペンハウアーだけではなく、人間ショーペンハウアーを知れる貴重な伝記です。この本が傑作と呼ばれるのもわかります。

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェおすすめ作品7選と解説記事一覧~ニーチェは面白い!哲学だけではなくその人生、人柄にも注目です

ニーチェの哲学書と言えばとにかく難解なイメージがあるかもしれませんが、それでもなお現代まで多くの人に愛され続けているのも事実です。難解なだけでなく、やはりそこに何か読者の心を打つような強いメッセージがあるからこそ多くの人に読まれ続けているのだと思います。

今回はそんなニーチェの哲学書の中でも私がおすすめしたい7つの作品とニーチェに関する興味深い解説をまとめた記事をいくつか紹介していきます。

ニーチェとドストエフスキー

おすすめニーチェ解説書10選~ニーチェとは何者なのか、その思想を学ぶために

この記事では私のおすすめするニーチェの解説書10冊をご紹介していきます。

これから紹介する本を見て皆さんは驚かれるかもしれませんが、一般的に「ニーチェ 入門」と検索しておすすめされる本とはたしかに違うラインナップです。ニーチェ入門の本を探している方にはハードルが高いと思われるかもしれませんが、実際読んで頂ければわかると思いますがとても丁寧でわかりやすい解説書ばかりです。

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェ書簡におけるドストエフスキーへの言及について~ニーチェとドストエフスキーのつながりとは

前回の記事で紹介した『ニーチェ書簡集』ではドストエフスキーについて書かれた箇所がいくつも出てきます。今回はそんなドストエフスキーに対するニーチェの言及が書かれている箇所を紹介していきたいと思います。

ドストエフスキーをニーチェとの関係から考えていくという試みをしていく中で非常に興味深い内容がそこにはありました。

『ニーチェ書簡集』はニーチェの素顔を知る上でも非常に興味深い作品ですが、ドストエフスキーとの関係を知る上でもとてもおすすめな一冊となっています。

ぜひこの本を手に取って頂ければなと思います。ニーチェの哲学書と違って非常に読みやすいです(笑)

ニーチェとドストエフスキー

『ニーチェ書簡集Ⅰ・Ⅱ』~ニーチェのイメージががらっと変わる!ニーチェの素顔を知るのにおすすめ!

『書簡集Ⅰ』では若きニーチェから哲学者ニーチェへと成長していく過程を見ていくことができます。哲学書では知ることのできないニーチェの素顔が知れて非常に興味深かったです。

そして『書簡集Ⅱ』では1884-1889年というニーチェ晩年の書簡を見ていくことになります。いよいよニーチェが発狂へと向かって行きます。狂気への過程が徐々に手紙から見えてくることに恐怖を感じます。明らかに文体や言葉がかつてと変わってきます。

ニーチェの素顔を知る上でこの書簡集は非常におすすめです。ニーチェに対するイメージがきっと変わると思います。ぜひ読んで頂きたい本です。正直、哲学作品そのものよりもおすすめしたいくらいです(笑)それくらい面白いです。

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェの主著?『権力への意志』~妹によって捏造された幻の遺稿集

実際この『権力への意志』を読むのは相当厳しかったです。まず、流れがないので読み進めるリズムがどうしても上がってこない。しかもやはり「作品にはならなかった」言葉の羅列なわけですからどうしても他の作品よりもぐっとくるものが少ない・・・

しかし、この作品がどういう経緯で作られたのか、そしてそれが意味するのはどういうことなのかということを知った上でこれを読むことは文学や哲学、歴史を学ぶ上で大きな勉強になったと思います。この本の制作で起きたようなことはおそらくあらゆるジャンルで起こりうるものでしょう。そうしたことについても思いを馳せる読書になりました。

そうした意味でこの本を読めたことは大きかったなと思います。

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェの自伝的作品『この人を見よ』~発狂直前に書かれたニーチェ最後の作品

この本の巻末解説によると、この作品はニーチェの誕生日10月15日に書き始められ11月4日には脱稿するという驚異的スピードで書かれた作品です。1889年1月初頭にはニーチェは発狂してしまうのでまさにこの作品は発狂直前のニーチェ最後の姿を知ることができる1冊となっています。

実際に本文を読んでいると正気と狂気のはざまを揺れ動くような言葉が続いていきます。読んでいて恐怖を感じるほど鬼気迫る言葉でニーチェは語り続けます。ほとんど狂気と言ってもいいような精神状態で書かれた言葉というのは、やはり凄まじい強さがあります。ドストエフスキーにもそれを感じますが、やはり天才と言われる人間の精神の在り様は通常のそれとはまるで違うということを考えさせられました。

ドストエフスキーとキリスト教

『ゲンロンβ63』齋須直人『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』~ドストエフスキーとロシア正教のディープな世界へ

『ゲンロンβ63』齋須直人『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』概要と感想~ドストエフスキーとロシア正教のディープな世界へ 今回ご紹介するのは株式会社ゲンロンより2021年7月に発行された『ゲンロンβ63』…

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェ『反キリスト者(アンチクリスト)』あらすじと感想~ドストエフスキー「大審問官の章」や仏教とのつながりについて

『アンチクリスト』は西尾幹二が述べるように私もニーチェ作品の中でも特に優れた作品であるように思えます。何より、読みやすい!そしてその思想の強烈たるや!この本はニーチェ作品の中で私の一番のお気に入りの作品です。ドストエフスキーが好きな方には特におすすめしたい1冊です。

また、個人的にこの作品で興味深かったのが仏教とのつながりです。この作品ではキリスト教に対して容赦ない攻撃を浴びせかけますが、仏教に対してはかなり好意的です。なぜニーチェが仏教に好意的だったのかもこの作品で知ることができます。