2021年7月

ニーチェとドストエフスキー

ヒュー・マクドナルド『巡り逢う才能ー音楽家たちの1853年』~ワーグナーやブラームスら天才音楽家が交差する奇跡の1年を描写

私はこれまでドストエフスキーを学ぶ過程でヨーロッパの歴史や文化を「文学の観点」から見てきました。

ですがこの本では「音楽という観点」から当時のヨーロッパを知ることができました。

よくよく考えてみれば本来、文学も音楽も切り離されるものではなく、互いに関連し合って存在するものです。一九世紀半ばのヨーロッパがどのような世界だったのかを音楽という側面から眺めることができたのは非常に大きな体験でした。

音楽に興味がある人だけでなく、文学やヨーロッパそのものに興味がある方にもぜひおすすめしたい作品です。

ニーチェとドストエフスキー

樋口裕一『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』~ワーグナーの特徴を知るためのおすすめ参考書!

この本ではマルクス、ドストエフスキー、ニーチェについても言及されます。

ワーグナーと思想、文学、哲学の関係についても著者はお話ししてくれますので、様々なジャンルがつながり非常に興味深いです。

ワーグナーの生涯や特徴だけでなく、西洋文化の歴史も知ることができるのでとても面白い本です。クラシック音楽に疎い私でしたが、とてもわかりやすくて夢中になって読むことができました。

中学高校と音楽の授業に大苦戦していた私でしたがこの本はあっという間に読み終えてしまいました。こういう本が教科書だったらもっと音楽が好きだったのにと思ってしまいました(笑)

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェとワーグナーとの出会い~ニーチェの思想形成におけるワーグナーの巨大な影響とは

ニーチェは若い頃から音楽を愛好していましたが、ワーグナーとの決定的な出会いは1868年、ニーチェ24歳の年に訪れます。彼はワーグナーの代表曲「トリスタンとイゾルデ」と「マイスタージンガー」が演奏されるコンサートに足を運びました。

ワーグナーの音楽によって、全神経が痙攣し忘我恍惚の感情が止まない境地にニーチェは引きずり込まれてしまったのでした。理性の力が全く及ばない混沌。圧倒されるような感覚にニーチェは驚愕するのでした。ニーチェの思想は絶対的なものを求める戦いです。こうした絶対的なものを求めるニーチェの傾向とワーグナーの音楽ががっちりとはまったのでありました。ここからニーチェのデビュー作『悲劇の誕生』が生まれてきたのでした。

ニーチェとドストエフスキー

J・R=ローゼンハーゲン『アメリカのニーチェ ある偶像をめぐる物語』~アメリカにおけるニーチェ受容の歴史

この本ではニーチェがアメリカにおいていかに受容されてきたかを見ていきます。前回の記事でもお話ししましたがニーチェは読む人によってその姿が変わってきます。つまりニーチェ解釈にはその人その人の個性が出てきます。ニーチェがどのように受容されたかを知ることで当時の人たちの思想を知ることにもつながっていきます。

「ニーチェとは~~である」と言うことは自分の思想表明に他ならないことを感じます。それほどニーチェは謎多き存在なのだなと実感しました。

ニーチェは読む者によって姿を変えるということを感じるのにこの本は非常にいい例を提供してくれます。非常に興味深い1冊でした。

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェは読む人によって姿を変える?ニーチェとはどんな存在なのか

ニーチェに関してはそれこそ無数の見解があることでしょう。それほど難解で多面的な顔を持つ存在です。

ニーチェと言えば難解過ぎてなかなか触れる機会もない存在だと思います。ですがそれにも関わらず様々な場所で顔を出してくる存在です。「なんかよくわからないがとにかくすごい人」というのが世の大体のイメージなのではないでしょうか。私もその一人でした。正直、ニーチェがいかなる存在かよくわからないのです。

今回の記事ではこれまで紹介してきた参考書の中から「ニーチェとは何なのか」ということについて書かれた4つの箇所を見ていきたいと思います。

ドストエフスキー論

萩原俊治『ドストエフスキーのエレベーター 自尊心の病について』~ドストエフスキーを通して人生を問うおすすめの参考書

萩原俊治氏は大阪府立大学の教授として勤められ2012年に名誉教授となられました。

また、現在も大阪府立大学の公開講座「ドストエフスキーを読む」を開講されています。

上のプロフィールにもありますが、私も萩原氏のブログのファンで、特に『カラマーゾフの兄弟』について書かれた記事に大きな感銘を受けました。ぜひおすすめしたいです。

この本は萩原氏の熱いメッセージで溢れています。この本は単にドストエフスキーを解説するだけでなく、ドストエフスキーを通して人生そのものを探究していく1冊です。とてもおすすめな作品です。ぜひ手に取って頂きたい1冊です。

ニーチェとドストエフスキー

マッキンタイアー『エリーザベト・ニーチェ ニーチェをナチに売り渡した女』~ニーチェには恐るべき妹がいた!前代未聞の衝撃!

この本は凄まじいです。衝撃的です。

「嘘でしょ!?」と思わずにはいられない驚くべき事実の連発です。

世界がいかにニーチェを受容していったのかを調べようと思い手に取ったこの本でしたが、想像をはるかに超える面白さでした。

ニーチェ自身も規格外の存在でしたがその妹もとてつもない人物でした。彼女は夫とともに南米パラグアイの奥地に純粋アーリア人の村を作り、そこの支配者として君臨し、村人たちを騙し続けていました。しかもニーチェ発狂後は彼の著作や手紙を改竄し、自分の都合のいいように「偉大な哲学者ニーチェ」を作り上げ、最後にはナチスに加担することになります。

この本はそんな恐るべきニーチェの妹の生涯を通してニーチェの人物像もあぶり出していくという作品となっています。

ニーチェとドストエフスキー

R.ザフランスキー『ニーチェ その思考の伝記』~ニーチェの思想はいかにして生まれたのかを知るのにおすすめの参考書

この本の特徴は何と言っても、単なる伝記ではなく、「思考の伝記」であるという点にあります。ニーチェの生涯を辿りながらその思考のプロセスをこの本では見ていくことになります。

しかも難解な哲学者の代表とも言えるニーチェの思想を小難しい言葉をなるべく使わずに解説してくれる点もありがたいです。

この本はわかりやすくも、その本質をしっかりと押さえた参考書になっています。難解なものをわかりやすい言葉で説明するというのはある意味危険を伴います。簡単に表現することで本来のものからかけ離れてしまう危険があるのです。しかしこの本ではそうしたことにならないよう、著者は細心の注意を払っていることがうかがわれます。

ニーチェとドストエフスキー

渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』~様々な視点からニーチェを知れる画期的な参考書

「ニーチェとは何者なのか。」

これは永遠のテーマなのかもしれません。

読まれる時代、読む者それぞれの違いによって違った姿で現れてくるニーチェ。

この本ではそんな「多面体」というべきニーチェについて考えていく参考書となっています。

ニーチェの生涯や思想面についても簡潔にまとめられていますので、困った時の参考書としても非常に便利な1冊となっています。

ニーチェとドストエフスキー

W.シューバルト『ドストエフスキーとニーチェ その生の象徴するもの』~2人のキリスト教理解から読み解くおすすめ参考書!

著者は絶対的な真理を追い求める両者を神との関係性から見ていきます。

さらにこの本では『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフや『カラマーゾフの兄弟』のイワンとニーチェの類似についても語っていきます。理性を突き詰めたドストエフスキーの典型的な知識人たちの破滅とニーチェの発狂を重ねて見ていきます。これもものすごく興味深かったです。

この本では興味深い箇所が山ほどあり、正直、本そのものを全部引用して紹介したいくらいの気持ちです。ですがそれをしてしまうと大変なことになってしまうのでそれはあきらめます(笑)

ただ、私自身にとってもこの本は非常に衝撃的な作品でした。

この本はドストエフスキー、ニーチェの両者を考える上で非常に有益な参考書です。