2020年12月

ゴロソフケルドストエフスキー論

ゴロソフケル『ドストエフスキーとカント 『カラマーゾフの兄弟』を読む』~カントという切り口から見るドストエフスキーとは

やはり欧米文学をやる上ではカントは避けては通れぬ道なのかもしれません。

とはいえ、正直申しまして私はカントやヘーゲル、プラトンなど西欧哲学が苦手です。挑戦してはあっさりと跳ね返され、未だにしっかりとは読めていません。

ですがこの本ではその言わんとしていることが何となくわかります。カントを知った上で読むのがベストなのかもしれませんが、そうでなくとも読んでいくことができます。

ドストエフスキーをまた違った視点から見ることができる興味深い作品でした。

ベルジャーエフドストエフスキー論

ベルジャーエフ『ドストエフスキーの世界観』~亡命ロシア人哲学者によるドストエフスキー思想研究の古典

人生の苦悩の中に光明が、救いがある。苦悩を苦悩として引き受けていく、そこにドストエフスキー作品の救いがあるとベルジャーエフは述べます。

ドストエフスキーは重くて暗い作品ばかり書いたというイメージが根強い作家ですが、それは真のドストエフスキーではないと彼ははっきり言うのです。ここに彼のドストエフスキー観の特徴があります。

クドリャフツェフの『革命か神か―ドストエフスキーの世界観―』と対比しながら読むとそれぞれの思想の違いが際立ってさらに面白くなります。

クドリャフツェフドストエフスキー論

クドリャフツェフ『革命か神か―ドストエフスキーの世界観―』ソ連的ドストエフスキー像を知るならこの1冊

この本は前回ご紹介した佐藤清郎著『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』と共にものすごい本でした。ぜひ2冊セットで読むことをおすすめします。そうするとこの本の持つ意味がより深まると思います。

ソ連時代にドストエフスキーがいかにしてソ連化していったのかがとてもわかりやすいです。そしてドストエフスキーが非信仰者であるという論説がどのようにして生まれてきたのかも知ることができます。これはドストエフスキーとキリスト教を学びたいと思っていた私にとっては非常に興味深かったです。あまりに面白かったので夜寝る時間が大幅に遅れてしまったほどです。読んでいて途中で切り上げるなんて到底できなくなりました。それほどこの本はすごいです。

観る者と求める者ドストエフスキー論

佐藤清郎『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』これ1冊で両者の特徴を学べる名著!比べてわかるその個性!

やはり比べてみるとわかりやすい。特に、ツルゲーネフとドストエフスキーは真逆の人生、気質、文学スタイルを持った二人です。

違いが大きければ大きいほど見えてくるものははっきりしてきますよね。

この著作を読むことでドストエフスキーがなぜあんなにも混沌とした極端な物語を書いたのか、ツルゲーネフが整然とした芸術的な物語を書いたのかがストンとわかります。

ツルゲーネフの生涯ロシアの文豪ツルゲーネフ

佐藤清郎『ツルゲーネフの生涯』~文豪の生涯と特徴を知れるおすすめ参考書!

この本はツルゲーネフの全生涯を振り返りながら、その出来事と作品のつながりをわかりやすく、そして深く掘り下げていってくれます。

単に生涯をたどるだけでもなく、単に作品の解説をするだけでもない。生涯と作品を結び付けて何がツルゲーネフの作品に影響を与えているかをとてもわかりやすく解説してくれます。

これまで当ブログでもツルゲーネフ作品を紹介してきましたがそこでもたくさん引用させて頂きました。

難しい理論的な話ではなく、実際の人生と作品の結びつきが物語的に語られるので肩肘張らずに作品を理解できます。

ハムレットとドン・キホーテロシアの文豪ツルゲーネフ

ツルゲーネフ『ハムレットとドン キホーテ』あらすじと感想~ツルゲーネフの文学観を知るのにおすすめ

この作品はツルゲーネフがハムレットとドン・キホーテについて思うことを述べた論文です。

ツルゲーネフにとってこの2人は彼の作品創作に非常に重要な影響を与えたキャラクターであり、彼の作品にはその面影が随所に見られます。

ツルゲーネフはハムレットとドン・キホーテを対置することで2人の性格を際立たせました。

常に自分のことでうじうじ悩むハムレット型、そして常に他者のために行動するドン・キホーテ型をツルゲーネフは見るのです。

処女地ロシアの文豪ツルゲーネフ

ツルゲーネフ『処女地』あらすじと感想~ロシアの70年代ナロードニキ青年達を描いた大作

ドストエフスキーの『悪霊』が書かれたのはまさに1870年頃のことです。

これはツルゲーネフが描こうとした70年代の青年とぴったり重なります。

ツルゲーネフは社会主義思想を信ずる過激派が農村に潜入し暴動を起こす流れを描写しました。

それに対しドストエフスキーはある街を舞台に、社会主義革命家が起こす大混乱と陰惨な事件を描きました。

舞台は違えど2人の問題意識は共通するものがあります。

物語の深刻さ、どす黒さという点では『悪霊』のほうが圧倒的に際立っていますが、『処女地』の視点も非常に興味深いです。文学スタイルの違う2人の作品を見ることでより深くこの時代の人間精神を学ぶことができるような気がします。

煙ロシアの文豪ツルゲーネフ

ツルゲーネフ『煙』あらすじと感想~ドイツの保養地バーデン・バーデンが舞台!文学における芸術を知るならこの本がおすすめ!

当時のロシア文壇からは不評だったこの作品ではありましたが現代日本に生きる私が読んでみたらどうだったのかと言いますと・・・正直、面白くはなかったです

では、この小説は読むに値しないものなのか。

いや、それが違うんです。

実は私にとってこの『煙』という小説は、ツルゲーネフ作品の中でもトップクラスに印象に残った作品となったのです。

個人的にはとてもおすすめな作品です。文学における芸術とは何かを知る上でこの作品は計り知れない意味を持っていると私は思います。

ハリストス正教会ロシアの歴史・文化とドストエフスキー

函館ハリストス正教会を訪ねて~ロシア正教の祈りとガンガン寺の鐘の音

ハリストス正教会は日本で初めて建てられたロシア正教の教会で、函館のシンボルともなっている教会です

ロシア正教は同じキリスト教といってもカトリックやプロテスタントとはその教えや祈り方、文化がかなり違います。

そしてそのロシア正教が初めて日本に上陸し根付いたのがここ函館だったのです。日本に布教にやって来たニコライ神父はドストエフスキーとも面識があったと言われています。

ドストエフスキーを愛する私としては何か不思議なご縁を感じます。私が住む函館がロシア正教を学ぶ上で非常に大きな意味をもっていることに運命のようなものを感じてしまいました。