最近私はnoteという媒体で以下のような記事を書きました。
「僧侶が問うコロナ禍の日本―伊藤計劃『ハーモニー』はコロナ禍を予測していたのか~死と病が異常事態になった世界で」
なぜこのブログではなく違う媒体で書いたのかと申しますと、今のブログの流れで急にこの話題を取り上げるのもどうなのだろうと悩んだからでした。
ですがいざnoteでこの記事をアップしたところ色々な反響がありましたのでそれならばこちらのブログでもご紹介できたらなと思い、ここに掲載させて頂きました。
※2020年11月末にnoteでの記事は閉鎖しました。現在は当ブログにて再掲載しています。
この記事では伊藤計劃さんの『ハーモニー』という小説を題材に「コロナ禍におけるいのち」ということについて思うことをお話しさせて頂きました。
このような世の中にあってずっと口には出せずにいましたが僧侶として考えなければならぬことがあるのではないか、言わねばならぬことがあるのではないかと強く思い、この記事ではお話しさせて頂きました。
この記事で紹介させて頂いた伊藤計劃さんは私の大好きな作家さんです。
noteの記事では伊藤計劃さんについてはあまりお話しできませんでしたのでこちらでプロフィールを紹介します。
1974年10月生まれ。武蔵野美術大学卒。2007年『虐殺器官』で作家デビュー。同書は「べストSF2007」「ゼロ年代SFべスト」第1位に輝いた。2008年、人気ゲームのノべライズ『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』に続き、オリジナル長篇第2作となる本書を刊行。第30回日本SF大賞のほか、「べストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門を受賞。2009年3月没。享年34。2011年、本書英訳版でフィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞した。
早川書房 伊藤計劃『ハーモニー』
このプロフィールを見て驚かれた方もおられるかもしれません。
伊藤計劃さんは34歳という若さで亡くなってしまったのです。
彼はがんの闘病をしながらデビュー作の『虐殺器官』を書き上げ、このハーモニーも末期がんに近い状況で書き上げたものだったのです。伊藤計劃さんがプロの作家として活躍できたのはわずか2年ほどだったのです。
闘病生活を送りながらこれほどの作品を書き上げたというのは驚愕以外の何物でもありません。自分の体が若くして病気に侵され、死が目前にある。そうした伊藤計劃さんの実体験と切り離すことができない作品がこのハーモニーなのです。
いのちとは何か。病とは、死とは。
それを伊藤計劃さんはこの作品で突き詰めていきます。
彼自身の境遇を思うとこの作品の持つ重みがさらに感じられます。

ここで『ハーモニー』のあらすじを紹介します。
「21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する”ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択したーそれから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見るー『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。」
早川書房 伊藤計劃『ハーモニー』
この作品では〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人間のいのちがあまりに高価になりすぎた時代を描いています。
〈大災禍〉ではあまりに人が死にすぎました。
そのため、数少ない生きている人間は貴重な資源となったのです。
そんなあまりに高価な人間を守るため世界は過保護すぎるほどに彼らを保護し養育します。そんな彼らにはもはや病気も存在せず、けがをすることすら叶わないほど高度なセーフティーネットが張られることになったのです。
しかし、あらすじにもあるようにそれは見せかけの優しさや倫理の横溢でした。
この記事において、私はこの作品をもとに仏教ではこの問題にどう向き合うのかということを考えました。
仏教はコロナ禍に対してどんなメッセージを発するのか。それをこの記事ではお話ししています。
このままでは人と人のつながりが失われ、日本はだめになってしまうのではないかと私は心から恐れています。それほどこのコロナ禍は現代日本人が抱えている心の問題、世の中のシステムの問題を浮き彫りにしたのではないかと感じています。
ぜひ読んで頂けましたら幸いです。
以上、「死と病が異常事態になった世界で―コロナ禍と伊藤計劃『ハーモニー』」でした。
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